ESPNのレイオフに思うこと

米スポーツ界ではESPNのレイオフが話題になっています。

ESPNは4月末に約100名のスタッフを解雇したのですが、その中に大物アンカーや解説者、記者が含まれていたことや、レイオフのやり方が酷かったということがさらに話題を呼んでいます。まあ、FBI長官もいきなり解雇される国ですから個人的には驚きませんが、とはいえ自他ともに認める米スポーツメディアの雄であるESPNの非情な姿勢に、レイオフには慣れているアメリカ人も少しびっくりしているようです。

先週、知り合いのスポーツ記者とランチした時もこの話になり、やはりテレビや新聞といったオールドメディアに勤めている者は、このニュースは他人事とは思えないと言っていました。仲間内で「え、あの記者も解雇されたの?」という驚きが広がっているようです。米国では、一般的に給料が高い人材からレイオフされますが、それがPersonalな話題として自分事になると、やはり衝撃は大きいんでしょうね。

ESPNは今でも約8900万世帯にリーチを持ち、スポーツ専門テレビ局としては群を抜いた存在感を示していますが、OTTの隆盛によってコードカッティングが進み、過去3年あまりで購読者数を1000万世帯減らしています。ソーシャルメディアの登場でファンのコンテンツ消費形態が大きく変わり、「スポーツニュースはその日の夜にまとめて見る」というのは過去の物になってしまいましたね。これだけハイライトがソーシャルメディアのタイムラインにバンバン上がってしまうと、ニュースでまとめて見る必要自体がなくなってしまいます。

米国では、テレビ局の放映権はブラックアウトルールによって守られていますから、OTTサービスより優先されるわけですが(テレビ中継とネット配信が重複する試合では、ネット配信が遮断される)、試合中継以外の周辺コンテンツをネットを交えて上手く使っていかないと、テレビだけでは先細りになってしまいます。

先月、Bリーグのスタッフと一緒にアトランタのTurner Sportsに行ってきたのですが(Turner SportsはNBAとJVでNBAのデジタルコンテンツ制作を行っている)、TSのCOOも「TNTではNBAの試合を週に2試合オンエアしているが、それだけでは賞味4時間のタッチポイントしか作れない」として、テレビの会社だというのにテレビの限界に触れた上で、テレビにトラフィックを戻す仕掛けとして他のメディアをポートフォリオとして持っておくことの重要性を指摘していました。

まあ、ESPNもテレビだけで見たら契約者数は減少していますし、これからも歯止めがかかることはないでしょう。しかし、親会社のDisneyはMLBAMから分社化したBAM Techに10億ドル出資するなど、OTTでのサービス拡充を視野に抜け目なく動いています。テレビとしてのメディアは縮小するでしょうが、それをどう補っていくのかが気になりますね。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2017年5月11日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はESPNサイトより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。