OPEC月報5月号:米シェールが価格の下押し要因に

昨日(5月11日)、OPECが定例の月報(Monthly Oil Market Report)を発表し、FTのAnjli Raval記者が要点をまとめた記事を書いている(”Rising US shale production pressure on crude price – OPEC” around 22:00 on May 11, 2017 Tokyo time)。

今回の月報には目新しい事項がさほどなく、ほぼ想定内の動きなので、FTの記事も簡潔にして短いものとなっているようだ。

検索してみたところ、三大邦字紙(読売、朝日、毎日)はスルー、日経だけがロンドン黄田特派員の記事「OPEC苦慮、減産延長を探る シェール増産で緩む需給」(2017年5月12日1:23)を掲載していた。だた、残念ながらこの記事は「月報」に目を通していないことを告白しているような水準のものでしかない。経済記事に関しては日経に期待するところ大なので、あえて苦言を呈する次第だ。

読者の皆さんも、もし時間が許すようだったら、ぜひこの二つの記事を読み比べていただきたい。

FT記事の要点は次のようになっている。

・OPECの調査部門(group’s research arm)が木曜日に発表。

・OPEC・非OPECの協調減産にもかかわらず、米シェールの予想以上に早い増産が価格の下押し要因となっている。

・3月のOECD商業在庫水準は30億バレル程度と(前月比3,600万バレル)減少しているが、依然として過去5年平均より10%程度(約3億バレル)多い。

・非OPECの供給量は、米国の投資増などにより石油(liquids)供給増が82 万BDほど見込まれるため、世界全体では、月報前月号対比37万BD増の5,820万BDになると見込まれる(4月月報では5,789万BDを見込んでいた)。

・OPEC原油への需要は3,190万BDへと(32万BD)下方修正したが、現在の生産量3,170万BDよりは多い。

・5月末のOPEC総会では現在の減産を延長する見込み。

FT記事だけでは面白味がないので、月報に目を通してみた。するといくつか興味深い点があったので紹介しておこう。

・月報の位置づけ:月報の最後に「免責条項Disclaimer」が付されていて、「この月報に含まれる分析データや他のどの情報も、情報目的だけ」のもので、「記載された見方は事務局のみのもので決定機関(Governing Bodies)や如何なるメンバー国のものではない」と明記している。

・石油開発(E&P)業界の投資は、低油価のため2016年は世界全体でマイナス23%、米国はマイナス38%だったが、2017年に入って米国の投資が急増している。

・2017年の非OPECの供給動向については重要要因として、世界経済、投資動向、各国の経済政策、カナダ・ブラジルのプロジェクト立ち上がり推移、原油価格および地政学(geopolitics)を挙げている。

・米国の投資は増え始めており、2017年2月には原油生産量が900万BDを超え、2016年9月比50万BDの増産となっている。2017年通年予測は、液体(liquids)全体で82万BD増、うち原油が60万BD増でほぼ全量がシェールオイル(原文はタイトオイル)。2017年1~2月で12月対比シェールオイルは10万BD増、NGLs(Natural Gas Liquids、天然ガスと共に生産される)が26万BD増だった。

・船上備蓄は減少している。

・需給バランスは、1Q17も供給量の方が需要量より多く、78万BD分が在庫に回ったことになっている。また2017年通年でも、OPEC原油への需要は3,192万BDの見込みで、減産合意時の目標3,200万BDの生産では、在庫は約3,000万バレルしか減少せず、リバランス実現への道が遠いことを示している。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年5月12日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。