ニック・バトラー:イラン大統領選の重要性

FTの週末エネルギーコラムニスト、ニック・バトラーが今日のコラムで、エネルギー会社およびエネルギー市場にとっては、5月19日のイラン大統領選ほど重要なものはないと書いている(”The importance of Iranian election” around 13:00 on May 14, 2017)。彼の最近の見方は、一言でいえば弱気派、石油需要のピークは皆が思っているより早いタイミングでやってくるので、価格が現在水準以上にあがることはまずないだろう、というものだ。その彼の、下記する最後のコメントは、どういう意味なのだろうか。保守強硬派のイブラヒム・ライシ氏が勝利して対米関係が悪化し、現在と同じようにイランの石油ガス産業への外国投資が行われない状況が続かないと、市況が回復する可能性はほぼない、と言いたいのだろうか?

首を傾げながら要点を紹介し、読者の皆様のご賢察を仰ぎたいと思う。

・2017年春は選挙の季節、フランス、イギリス、韓国と続き、秋にはドイツの総選挙もある。国際エネルギー会社および世界のエネルギー市場にとっては、イランの大統領選ほど重要なものはない。

・12人の候補者がいるが、実質的には穏健派(moderate)のハッサン・ローハニ現大統領と、保守強硬派(hardline)の元検事総長のイブラヒム・ライシ氏に絞られている。穏健派、保守強硬派とラベルづけされているが、実態はもう少し複雑だ。ローハニ大統領は宗教的にリベラルなわけではないし、ライシ氏も人々のイメージほど厳格なわけでもない。二人とも1979年のイラン革命以降の修羅場を乗り越えてきた御仁だ。

・だが、誰が勝つかは重要だ。次の大統領は、国内的には病気がちの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の後継者選択に重要な役割を果たすだろうからだ。中東においてはサウジとの抗争をイエメンが崩壊するまで継続するのか、シリアのアサド政権を支え続けるのかを決める立場にある。また国際的には、米国との関係をどうするのか、石油ガス産業への外国投資の妨げとなっている経済制裁の将来について重大な決断をする立場にもある。

・2015年の核合意により、アメリカの経済制裁は部分的に解除されたが、部分的には残っている。米国籍を持つ人は誰であっても、イランと如何なる取引もできないままだ。西側の大手石油会社には米国パスポートを持った幹部社員が何人もおり、イランの件が議題になると彼らは会議室から出ていかなければならない。またイラン事業を進めるのに必要な金融手配面では、国際的銀行システムを利用する場合には多くの制限が残っている。

・アメリカの経済制裁に違反したとして、パリバ銀行が89億ドルの罰金を課せられて以降、各社のコンプライアンス担当役員は、イランにおける如何なる事業にも否定的だ。

・1,500億バレルの石油と1,000兆立法フィート以上のガスの埋蔵量をもち、さらに未探鉱の資源の可能性があるイランに対する各社の希望は大きい。コストは低いし、改修(upgrade)を要するが開発に必要なインフラは整っている。生産会社、サービス会社、法務あるいは技術のサポート会社にとって、イランはドアが開けられるのを待っている黄金の鉱山なのだ。

・イラン側も投資と技術を必要としている。核合意後、生産は回復し380万BDにまで増え、輸出も230万BD程度となった。だが、国際エネルギー会社の全面的な参入がなければ、これが限界のようだ。政府が目標とする5~6百万BDまでの石油増産および輸出に十分な量のガス生産もできないし、核合意によって何十年も滞っていた経済的苦境から脱することができるとの期待に応えることもできない。

・核合意を「これまでで最悪の取引だ」と主張してきたが、就任後100日間、破棄することもしなかったトランプ大統領の真意が読めず、過去6ヶ月間、協議は停滞したままだ。不確実であることが米国の交渉戦術(negotiating tactics)になっているため、投資家たちは待つしかないのだ。

・例外的にフランスのTotalが、金融手配を中国の銀行で行なえるCNPCとともに、サウスパルスガス田の第16期開発計画をイラン側とJVを作って進めることで合意した。だが、フランス政府の支援があってもTotalは慎重で、交渉は進んでいない。

・いまもっとも熱心なのは、Farzad Bガス田の開発案件に30億ドルで応札しているインドの国営ONGCと、RosneftやLukoilを中心とするロシア勢だ。だが、ONGC案件は小型であり、ガス需給がゆるみ価格が下がっている状況下、ロシア勢がどれほど真剣かは分からない。

・5月19日の選挙結果はこれらの方向性を明らかにする。だが依然として米国との緊張が続き、すべてが凍結され、何年も投資が遅延するリスクもある。

・一方、米新政権が中東で新たな戦火を望んでいる気配はなく、米国の多くの会社がイランにおけるパーテイに参加したがっている兆候がある。現状の核合意を再考することに双方とも興味関心を持っている可能性はある。

・もしそうなれば、制裁はゆるめられ、イランへの投資は急速に進むだろう。生産にすぐに結びつくかもしれない。

・石油価格のサイクルが反転して、次の2年間にタイトになって欲しいと望む人は、イランの大統領選の結果を注意深く見守る必要がある。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年5月14日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。