経営者と話をすると、「ピンチの裏にはチャンスが隠れている」という経験をした人が多いことに気がつく。ピンチが前々から分かっていれば心の準備ができるが、急なピンチほど動揺してしまうものだ。
岡山に拠点がある(株)岡三食品は、国内唯一の「むき甘栗」専業メーカーである。社長である、花田雅江(以下、花田氏)の経営者としてのキャリアは、父の会社が倒産し負債を背負うことからはじまる。
さらに、中国製の冷凍餃子に毒物が混入していた事件の影響を受けて、関係のない自社製品が売場から撤去されるなど試練が襲ってくる。その時、「ピンチの裏にはチャンスが隠れている」ことを身をもって経験したそうだ。
■ピンチをチャンスに転じる絶好のチャンス
――自ら招いた失敗でなくても状況が悪化していく場合がある。中国製餃子問題をご存知だろうか。2007年12月から08年1月にかけ、天洋食品の冷凍ギョーザを食べた10人が中毒症状に陥った。ギョーザから殺虫剤メタミドホスが検出された事件である。
「中国製餃子問題のときがそうでした。でも、それも今にして思うと、そうした危機的状況は、ピンチをチャンスに転じる絶好のチャンスだったとも言えるのです。中国製餃子問題が起きた当時、私は取引先各社を回って、自社のむき甘栗が安全性の高い自然食品であることを訴えるために、製造工程の一つひとつを詳しく説明させていただきました。」(花田氏)
「また、工場をオープンファクトリーにして、一般の方々にも見学していただけるようにしました。すぐに良い反応が得られたわけではないのですが、万全の管理体制をアピールする良い機会になったことはたしかです。」(同)
――さらに、同じ時期におこなっていた消費者向けのキャンペーンが評判になる。1日に約200通のハガキが返ってくるようになったのである。
「中国製餃子問題が発生した時期には、食の安全性に対する質問も多く寄せられました。そうしたご質問に対し、2年間で約5000名の方に、返信をさせていただきました。当社が原料としている栗は有機栽培で育てられていること、また、加工の際に保存料などの添加物を一切使用していないことを、ありのままにお伝えしたのです。」(花田氏)
「そうした努力が反映されたのか、ありがたい応援メッセージの書かれたハガキやお手紙が何通も寄せられました。『岡三食品の製品だけは信頼しています。これからも頑張ってください』。こうしたお客様からの声に、私たち岡三食品の者がどれほど励まされたか、言葉ではとても言い表せないほどです。」(同)
■社員に行動変容が見られるようになる
――花田氏は当時を振り返り、社員の意識や行動に変化が見られたことが非常に大きかったと次のように答えている。
「社員の意識が向上し、結束も強まっていきました。それは劇的とも言えるほど大きな変化で、社員研修や勉強会にどれだけ時間とお金をかけたとしても、これだけの変化をもたらすことはできなかっただろうと思います。『ピンチの裏にはチャンスが隠れている』のです。我が社の辞書に『できない』という言葉はないとさえ思いました。」(花田氏)
「中国製餃子問題があったおかげで、当社ではもう一つ、素晴らしい変化が起こりました。当時従業員は仕事を取り上げられてしまったに等しい状態でした。仕事をしたくてもできないというのは相当につらかったでしょう。その後餃子騒動が鎮静化して、取引先から発注がかかると、みんな大喜びでした。」(同)
――そして社員の意識は次のように変化していく。
「繁忙期になると決まって飛び出していた言葉、『もういっぱいいっぱいです。これ以上は無理です。できません』を口にする人がいなくなったのです。せっかく仕事が戻ってきたのだから、『できない』などと言ってはダメよと誰かが指令を下したとか、封印したとかいうわけではないのです。」(花田氏)
「できない理由を述べ立てるのではなく、できるようにするにはどんな方法があるだろうと、みんなが考えるようになったからです。否定から肯定へと、ものの見方が変わったのです。仕事があり、必要とされていることが嬉しい。そう思えるようになったからこそ、仕事に対する意識変革が起きたのだと思います。」(同)
――やはり、「ピンチの裏にはチャンスが隠れている」ようだ。本書で紹介している紆余曲折は実話に基づいているのでリアリティがある。ビジネスパーソンは大いに共感できる内容ではないかと思う。
参考書籍
『めげない自分をつくる「セルフトーク」』(高陵社書店)
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からお知らせ>
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第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
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