世界に先駆けて超高齢化社会が現実のものになっている日本。誰もが長い人生を「自分らしく生きたい」と願っている。ところが現実はそう簡単ではない。食が豊かになりすぎたことで、罹患リスクは高まり「悩める晩年」が社会全体を巻き込んでいるからである。
今回は、歯科医師であり、米国抗加齢医学会認定医として「米国発、最先端の抗加齢医学を誰よりもやさしく語れる歯科医師」として活動をしている、森永宏喜(以下、森永氏)に話を聞いた。
あらゆる病気は口から侵入する
――飲んだり食べたり、呼吸をするたびに、口には体の外からいろいろなものが入ってくる。水や栄養分のように有益なものもあれば、細菌のように有害なものもある。
「体に異常をもたらす病原体のうち、経口感染、飛沫感染、空気感染・・さまざまな形で、口から侵入してくるものがたくさんあります。口は、あらゆる病気の入り口でもあるのです。ということは、そうした病気の感染を防ぐためには、口の中、とりわけ口腔粘膜の健康が非常に大事なキーポイントになるということです。」(森永氏)
「なぜなら、粘膜は、病原体の侵入を防いで体を守るバリアの役割を果たしているからです。口腔粘膜の特徴は、表面を粘液(唾液)でカバーされていること。この粘液が、病原体をブロックする働きをしているのです。」(同)
――この粘液がきちんと分泌されているかで、病原体を防ぐ力が強くも弱くもなる。
「粘液のネバネバはムチンというタンパク質の一種。病原体を排除する機能を果たしているのは分泌型免疫グロブリンA (IgA)と呼ばれる物質。粘膜の免疫力の中心を担っていてこれもタンパク質から作られています。口の中では、ムチンのような物理的バリアやグロブリンの免疫的バリアに加え、化学的バリアがあって体を守ってくれています。」(森永氏)
「それは、唾液に含まれるリゾチームやラクトフェリンで、強い抗菌作用がある物質として知られています。リゾチームは細菌の細胞膜を加水分解し、ラクトフェリンは細菌から増殖に必要な鉄を奪って作用します。」(同)
――口は常に、病原体の侵入のリスクにさらされているが、物理的、化学的、そして免疫と何重ものバリアに守られている。口の中をよい状態に保つことは、あらゆる病気を予防することにつながるようだ。
歯がよいと医療費がかからない
――健康な生活を送るには、口の中をよい状態に保つことが大切である。
「元気で重篤な病気などの心配さえなければ、病院通いや毎食後、何種類もの薬を服用しないといけない生活を強いられることもありません。つまり、歯を中心に口の中の状態がよければ、老後の限られた生活費の中から捻出しなけれぱならない医療費も抑えられることになります。元気な高齢者が増えれば医療費の削減にもつながるでしょう。」(森永氏)
――森永氏によれば、歯周病などの原因で歯を失ってしまい、残っている歯が少ない人ほど医療費が高くなっているという研究結果があるとのことだ。
「歯と医療費に関して興味深いデータが発表されています。東北大学加齢歯科学講座の調査は、50歳以上の約3万人を対象に行われました。この調査によれば、歯が4本以下しか残っていない人の場合、20本以上残っている人に比べて1か月の平均医療費が約5600円も多くかかっているという結果が明らかになりました。」(森永氏)
「次に、香川県歯科医師会による調査を紹介します。残存歯数と医科医療費の関係について同歯科医師会が調査したところ、残存歯数が20本以上ある人の年間医科医療費が35万5688円だったのに対し、4本以下の人は60万8740円と1.7倍になることが明らかになりました。」(同)
――これらの数字をざっと眺めただけでも、高齢になっても多くの歯が残っている人は、医療費が少なくてすむというのは間違いないように思える。
「医療費がかからない高齢者は、健康寿命が長くなっているはずです。これが豊かな人生につながることはいうまでもありません。健康を維持し、病気を予防するということは、最高のアンチエイジングといえます。」(森永氏)
――最近では、口腔の機能が健康維持に大きく関わっているという研究結果に注目が集まっている。油断して、将来を後悔することにならないためにも、「歯と口の健康」がいかに大切か、改めて認識する必要性がありそうだ。
参考書籍
『全ての病気は「口の中」から! 』(さくら舎)
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講しました―
第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
講義の様子「アゴラ出版道場第2回目のご報告」