仕事のクオリティを高める「がまの油売り」の秘訣とは

講師が宮川氏。講演会にて撮影。


「声の通りが悪い」「滑舌がよくない」「自分の声が嫌い」など、自分の声に悩んでいる人は少なくない。私たちは、生まれてきてから育った環境で発声や話し方を身につけてきているが、プロに学んだことがない。では「プロの声」とはどのようなものだろうか。

どんな人でも好感度アップ! の声の魔法』(青春出版社)の著者である、宮川晴代(以下、宮川氏)は、アナウンサー、司会など、声のプロとして仕事をしている。いまではプロ・アマを問わずヴォイスアップコーチとしての評価も高い。今回は、「がまの油売り」のケースを交えながら表現方法の重要性について解き明かす。

「がまの油売り」を知っているか

――宮川氏は声作りに必要な要素を、呼吸法と発声だと語る。呼吸法と発声を訓練すればある程度の水準には到達できる。しかし、水準を超えたいのなら「声を活かす表現法」を身につけなくてはいけない。

「皆さんは、『がまの油売り』をご存知でしょうか。実際の油売りでは、「さあ、お立ちあい。ご用とおいそぎのないかたは、ゆっくりと聞いておいで!」といった小気味よい導入部のあとに、この口上が続きます。小気味良いリズムを参考にしてください。

“てまえ持ちいだしたるは、四六(しろく)のがまだ。四六、五六(ごろく)はどこでわかる。前足の指が四本、あと足の指が六本、これを名づけて四六のがま。このがまの棲めるところは、これよりはるか北にあたる、筑波山のふもとにておんぱこというつゆ草を食らう。

このがまのとれるのは、五月に八月に十月、これを名づけて五八十(ごはっそう)は四六のがまだ、お立ち会い。このがまの油をとるには、四方に鏡を立て、下に金網をしき、そのなかにがまを追い込む。がまは、おのれのすがたが鏡にうつるのをみておのれとおどろきたらーり、たらりと油汗をながす。

これを下の金網にてすきとり、柳の小枝をもって、三七二十一日(さんしちにじゅういちにち)のあいだ、とろーり、とろりと煮つめたるがこのがまの油だ”(『古典落語」興津要編/講談社学術文庫)より。ルビ、改行追加。」(宮川氏)

「これはもともと、『がまの油売り』が使っている口上です。がまの油売りといえば、日本伝統の実演販売。私も子どものころ、道端で見かけた覚えがあります。」(同)

――昔は、繁華街や歩行者天国などでよく見かけた。はかま姿のおじさんが威勢よくしゃべっていたものである。

「がまの油は、ガマガエルの分泌物を蝋や油で混ぜた軟膏剤の一種。江戸時代に傷薬として売られるようになりました。切れ味のよい刀で自分の腕を切って、血が出たところにがまの油を塗ると、たちどころに血が止まる。そうしたパフォーマンスに続けて、『これだけ効き目があるから買いませんか』と、セールスを行っていたわけですね。」(宮川氏)

「最近はめっきり見かけなくなりましたが、数年前に水道橋の東京ドームの前で、筑波山ガマ口上保存会の方が実演していました。」(同)

――俳優やアナウンサーのトレーニングでは、表現方法を学ぶため、さまざまな文章を口にする。現代文学や古典文学を読むこともあれば、「外郎売」のような歌舞伎の長台詞を読むこともあるそうだ。

「私は、表現法の練習として『がまの油』を学びました。独特のリズムがあるうえ、話の内容もユニークで、表情豊かに表現できます。聞いていても楽しいですが、話していても楽しいのです。」(宮川氏)

表現方法をマスターするメリット

――表現方法をマスターすることによる効果とはなんだろうか。宮川氏によれば、「聞いている相手も快く、話している本人も快いこと」が効果にあげられるそうだ。

「自分の話したいことが、考えなくても言葉になり、しかも、相手に正しく伝われば、楽しくなるのも当然です。さらにがまの油売りのように、リズムよくしゃべれるようになれば、話すことに喜びを見出せます」(宮川氏)

「先ほどの『がまの油』の文章を、声に出して5回読んでください。文章を見なくてもスラスラと言える状態になるのが理想的です。」(同)

――なお、宮川氏の声にはストラディバリウスと同じ周波数で、脳波にα波が現れる「1/fゆらぎ成分」を含んでいることが評判になり、声のプロに転身したそうだ。次回は、「ストラディバリウスと同じ周波数」について聞いてみたいと思う。

参考書籍
どんな人でも好感度アップ! の声の魔法』(青春出版社)

尾藤克之
コラムニスト

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第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
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