格付会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日に中国の人民元建てと外貨建ての国債格付けをAa3からA1に1段階引き下げたと発表した。中国は潜在的な成長力の鈍化に伴い、政府の債務負担が増加し、財政の健全性が損なわれるとの見通しを反映した(日経QUICKニュース(NQN))。
同社による中国格下げは1989年以来となるそうである。また、A1との格付けは日本国債と同じである。
ムーディーズの格下げ発表を受け、中国人民元は売られ、中国株も一時的に下げた。東京株式市場もやや上げ幅を縮小させる場面もあったが、影響は限られた。
格付会社による格下げが市場に大きなインパクトを与えた例としては、2010年のギリシャの財政問題が表面化した際の格下げがある。格下げによって市場の動揺が増幅されることになり、問題がアイルランドやスペイン、イタリアなどにも飛び火した。
また、2011年8月に格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。同社が米国債を格下げするのは1941年の現行制度開始以来初めてとなったが、これによる市場への影響は限られた。米国債は質への逃避の動きから買い進まれたぐらいであった。
これは、民間格付会社が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらく、金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。 ただし、米国の格付会社が自国の国債の格付けを引き下げということはある意味ショッキングな出来事でもあり、マスコミでも大きく取り上げられた。
民間格付け会社によるソブリンの勝手格付け(依頼されたものではない格付け)は、たしかに警告として受け止める必要はある。しかし、だからといって、これを受けて市場参加者が動揺する必要はない。当時のバーナンキFRB議長は下記のような発言をしていた。
「ある意味で、S&Pの米格付け見通し引き下げがわれわれに伝えることは何もない。新聞を読む人なら誰でも米国が非常に深刻な長期的財政問題を抱えていることは知っている」
これは日本国債の格付け変更時にもいえることで、日本国債は格付会社の格下げがあってもほとんど動揺していないというか、材料視すらしていない場合が多い。
今回の中国の国債格下げについても、なぜこのタイミングで1989年以来の格下げを発表したのかという意外性はあったかもしれない。しかし欧州の信用不安時のように市場の動揺をさらに加速させるようなきっかけにでもならない限り、それによる影響は限られたものになると予想される。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年5月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。