戦争体験者の私が、いまの政治家に申し上げたいこと --- 釜堀 董子

アゴラ

1937年生まれの私は、12月に80歳を迎える。実体験は少ないが、まわりから教わった戦争体験を、しっかりと伝えることが必要ではないかと感じている。

よく街中で見かけたという出征する兵士と家族の光景などは最たるものではないか。「万歳!万歳!」と見送られるが、兵士と家族は必死に涙を堪えている。そんな光景を見れば「みんな本当は行きたくないんだ」と思ったことだろう。戦時中の記憶は定かではないが、戦後、傷痍軍人を街中でよく見かけた。白い服を着てアコーデオンを弾いていた姿が印象に残る。

時は流れて、日本は終戦72年を迎えた。日本人でありながら世代間による戦争の考え方は大きく変わってきている。私の世代は「二度と戦争はすべきでない」と答えるだろう。しかし、若い世代は「日本は強くなるべきだ」「平和を守る一員になるべきだ」と答える。

満蒙開拓義勇団の出征の見送り風景(日本財団図書館サイトより引用:編集部)

いまの政治家は戦争の実態を知らない

私の子ども時代や若い頃は、戦争といえばそれだけで世論が沸騰した。戦場へ行った人たちが大勢いたからである。戦地にやらされ、九死に一生を得た彼らの感情は激しかった。一方日本国内は、空襲や原爆で廃墟になっていた。戦争の悪は日本人すべてが認識したといっても過言ではない。戦争につながるものは激しい批判にさらされた。

だから憲法9条も非武装中立も、さほどの違和感なく受け入れられたのである。民主主義も男女平等も新憲法も、天皇が神から人間になったのも、すべてが180度の転換だったが、すんなりと行われたのである。

なにしろ300万人の日本人が戦争で死んだのであるから、世の中がどんでん返しになっても不思議ではなかった。なお日本人は300万人であるが、アジアの死者は1500万とも2000万ともいわれている。

戦後日本は民主主義国になったとは言うが、それは表面だけで、内実は古い日本が脈々とつながっている。世間を気にし、出すぎず遅れず人並みであることを旨とする、隣百姓の精神は健在である。これは農家ばかりではない、企業も官庁も都会の家庭も同じである。

哲学者の内田樹氏は「(共謀罪の)法案成立後、“政府は隣人を密告するマインド”を進めるだろう」という。日本人の隣百姓精神を考えれば簡単なことである。その気になれば、政府は安上がりの監視社会が作れるのである。氏はまた「国民は主権者ではないということが、日本人にとってリアル」「戦後生まれの日本人は一度も主権者であったことがない、家庭でも学校でも職場でも」という。

たしかにそうかも知れない。家庭は世間を気にして、子どもを塾へやったり、躾をしたりする。学校は偏差値や管理教育で、がんじがらめである。日本の今の学校は、かたちを変えた戦前の軍国主義教育ではないかと思わないでもない。そのため子どもたちは人間らしく生きたり、考えたりするのではなく、世間に合わせることを身に附けるのではないだろうか。だからどうせ世の中は変えられないと選挙にも行かない。

政治や社会を諦めているのは若者だけではない。大人も同じことである。テレビや新聞はなかなか本当のことを知らせてくれない。漠然と手探りのような頼りない感じであろうか。政治への関心が持てず投票率が低いのであろう。

戦争を賛美するメディアの脅威

戦争が近づくと新聞は戦争を賛美するようになる。戦争を賛美するほうが売れるからである。新聞が賛美すれば、雑誌や地方新聞も追随せざるをえなくなる。それでも反対すれば監獄に送られる。記者のなかには正しい情報を伝えようとした者もいたが馘首された。第二次世界大戦はまったく正しい情報が知らされないまま終戦を迎えた。

日本の民主主義は自分たちでかち取ったものではなく、戦争に負けて与えられたのであり、72年経った今も自分のものにはなっていない。内閣支持率は相変わらず高いということだが、現政権を配慮しているかと思われる曖昧なテレビや新聞の報道、固定電話による調査、こんなところに支持率が高い原因があるではないだろうか。

しかし変化のきざしが見えないでもない。スキャンダルである、森友、加計問題など今まで見えなくされていたものが、明るみに出てきた。これが当事者等の告発などで出てきたものでも、やはり自民党内での後押しがあるようだ。権力闘争が政治につきものとすれば、これらも含めて政治が変わってゆくのもあながち否定すべきではないかもしれない。

戦争が起きる可能性は今後もある。そうなると新聞社をはじめとするメディアは戦争賛美になるだろう。だから、私は戦争を知らない人たちに何回でも訴えていきたい。また私たちがその役割を担っているのだと確信している。

釜堀 董子
主婦、千葉県市川市市政戦略会議委員(公募市民)、アゴラ出版道場二期生

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