心理学は「人問心理を解き明かすもの」だが、何となく知っているだけでは役にたたない。大事な場面で、「こんな形で使える」という実践的なレベルにまで高めておかないと、中途半端な知識で終わってしまう。
神岡真司(以下、神岡氏)氏はビジネス心理学の専門家である。ビジネス心理学に関する著書も多く、30万部ベストセラー『ヤバい心理学』がある。今回は近著『効きすぎて中毒になる最強の心理学』(すばる舎)を紹介したい。
■段階を踏めばお願いは通りやすくなる
――人は、小さなお願いごとだと、わりと簡単に要求を受け入れてくれる。他にも理由がある。「断ることで相手に悪印象を与えたくない」「親切にしておくことで何らかの見返りも期待できる」。このような下心がはたらくこともある。
「人は、小さなお願いごとに対しては、ちょっと嫌いな人からの要求であっても、すんなり受け入れてしまいます。そして、最初に小さなお願いごとを受け入れさせれば、次の追加の要求にも容易にYESと応じてしまうわけです。似た手法では、最初に魅力的なエサを撒き、釣り上げたところで本命の要求も呑ませてしまうテクニックもあります。」(神岡氏)
「これは、受け取りやすいボールを最初に投げかけるので『ローボール・テクニック』と言います。私たちの周囲のいたるところに使われています。」(同)
――次ぎにあげたようなケースは、「ローボール・テクニック」に当てはまる。ぜひ参考にしてもらいたい。
<とある居酒屋>
・「生ビール何杯飲んでも1杯100円」というアピールで客を積極的に集めている。
・しかし、店内では「単価の高い種類の酒やサワー類」をすすめてくる居酒屋。
<とある上司>
・「今日、30分だけ残業頼めるかな?」と上司が、帰り際の部下に切り出した。
・やってもらう仕事は「とても30分では終わらない」仕事量だった。
<とある友人>
・「今晚、夕飯おごるから買い物につき合ってくれない?」と友人に言われた。
・結果は、車を出して「荷物の運び役」を一緒に手伝わされただけだった。
――「実は、もっと、あくどい手法も世間には転がっています(神岡氏)」とのことなので、その真髄を紹介したい。
■キャバ嬢も使っている心理テクニック
――次ぎのようなやりとりをしておけば、知り合いの中古車屋にクルマを運び、あらかじめ打ち合わせてあった少々お高い査定価格を提示してもらうことも可能だ。それを友人に売りつけるという手合いもいるだろう。
自分「君が気に入っていた車を手放そうと思うんだけど、よかったら買わない?」
友人「えっ、あの4WDを売ってくれるの。価格は安くしてくれるの?」
自分「中古車屋で査定してもらう価格でどう?それならかなりオトクだろ?」
友人「中古車屋の仕入れ価格なら、断然トクだからぜひ買わせてもらうよ!」
「中古車屋の査定価格で買うと言ってしまった手前、友人は思ったより価格が高いと思っても、いまさら『やっぱ買うのをやめる』とは言い出せなくなります。また、この方法はキャバ嬢がよく使うテクニックとして知られています。」(神岡氏)
「次ぎはキャバクラのケースです。やり取りをみてどう思いますか。お店に行った経験がある人なら、思い当たる節はありませんか?」(同)
嬢「ねえ、今夜はラストまでいて、アフターに誘ってくれたら、嬉しいんだけど?」
客「ラストまで、あと2時間もあるよ。終電なくなるからそろそろ帰るよ(キッパリ)」
嬢「明日、お休みでしょ? 2人きりで夜景のきれいなラウンジで飲みたいなぁ?」
客「ふーん。夜景のきれいなラウンジねぇ。じゃ、そうしよっかな、ハハハ…」
嬢「わー嬉しい!ありがとう。だから“和男さん”のことが大好きなの!!!」
「キャバ嬢のほうからアフターに誘われると、お客の期待も膨らみます。その後の展開が妄想させられるからですが、キャバ嬢は、店での月間指名ノルマの本数を計算していたにすぎません。夜景を見ながら残念な不都合が生じるのは目に見えていますよね。」(神岡氏)
――本書にはヤミツキになりそうな興味深い話が満載されている。知っていて損はないテクニックばかりだ。楽しみながらビジネス心理学を理解できることだろう。なお、使用上の注意、副作用には留意のほど。使用量もお間違えなく。
参考書籍
『効きすぎて中毒になる最強の心理学』(すばる舎)
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講しました―
第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
講義の様子「アゴラ出版道場第2回目のご報告」