河野洋平氏の暴論に気付かない朝日新聞

山田 肇

河野洋平氏(衆議院議長時代、Wikipedia:編集部)

6月1日の朝日新聞朝刊に『「9条さわるべきでない」 河野元衆院議長、改憲論を批判』という松井望美記者の記事が掲載された。河野氏が講演の中で、安倍首相の憲法9条改正論を批判し、「理解しようがない。9条はさわるべきではない」と表明したというのが記事の中心である。

この記事にある河野氏の次の発言は理解できない。

憲法は現実に合わせて変えていくのではなく、現実を憲法に合わせる努力をまずしてみることが先ではないか。憲法には国家の理想がこめられていなければならない。

河野氏は9条について「このままでも国民は納得しているのだから、このままでいい」とも言ったそうだ。つまり、憲法から現実がずれても国民が納得していればよいという意見である。

なぜ、この発言が理解できないのか説明しよう。

わが国のすべての法律は憲法の下にある。憲法が現実よりも理想を表すのであれば、法律も現実よりも理想を表すものになる。そのような状況下で、ある法律に違反すると問われた者が「現実は異なるし、国民も納得している」と抗弁したらどうなるか。

河野氏は抗弁を認める立場である。それでは、強大な権力を持つ行政が法律違反を犯しても止められない。テロなどの組織犯罪を企てる集団の大規模な活動を未然に阻んだら、捜査機関の法律違反を問う前に、国民は称賛するに違いない。だから、河野理論に立てばテロ等準備罪など不要になる。

報道の自由がわが国で制限されているとは思わないが、仮に制限されているとしても、河野理論では「報道の自由は理想で、現実は異なる」で止まってしまう。朝日新聞が掲載したのはそんな暴論である。

憲法も法律も社会情勢という現実を反映して修正するのが当然である。それによってこそ、現実を直視したうえで理想を実現する道筋が見つけられるようになる。