英国のロンドンで3日夜(現地時間)発生したテロ事件で7人が死亡、48人が重軽傷を負った。英国では過去3カ月間で3度、イスラム過激派によるテロ事件が起きた。メイ英首相は4日、「十分だ。もう十分だ」と強調し、イスラム過激派テロ事件に強い怒りと敵愾心を露にしたほどだ。
頭を整理したい。
①ロンドンで3月22日、一人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。
②マンチェスターの英国最大のコンサート会場「マンチェスター・アリーナ」(2万1000人収容)で5月24日夜、米人気歌手のアリアナ・グランデさん(23)のコンサートが開かれたが、彼女が歌い終え、舞台から姿を消した直後、会場ロビー周辺でイスラム過激派の自爆テロが発生し、22人が死亡、59人が負傷した、犠牲者の22人のうち、12人は16歳以下で、最年少は8歳の女の子だった。
③ロンドン中心部のロンドン橋で6月3日、3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。7人が死亡、48人が負傷して病院に搬送された。実行犯の3人は現場で射殺された。
ロンドンのテロ事件をフォローしていた時、イタリアのトリノから速報が入ってきた。
3日は欧州サッカーのハイライト、チャンピオン・リーグの決勝戦、レアル・マドリードとイタリアのユベントスの決勝戦が行われた。ユベントスの本拠地、イタリアのトリノ市で多くのファンが中央広場のサン・カルロに設置された3万人以上入るパブリック・ビューイングでユベントスを応援していた。その時だ。爆音(爆竹)が響いた。それを聞いたファンが「爆弾だ」と叫んだ。それがきっかけでファンたちが一斉に逃げ出した。会場はパニックとなり、大混乱となった。
多くのファンが逃げ出すシーンが放映されていた。フェンスを超えるファン、押し倒されたファン、壊れたガラスで怪我し、血を流すファンの姿が映し出された。トリノ市当局が4日発表したところでは、1527人が重軽傷を負ったという。トリノ市のChiara Appendina市長は、「ショックを受けた。犠牲となった市民には可能な限りの支援をしたい」とツイッターで発信している。
イタリアのメディアによると、主催側に対し「どうして会場に爆竹を所持することを認めたのか」、「入場の際の管理は十分だったか」といった批判の声が挙がっているという。
トリノの出来事をニュース番組で見た時、2010年7月24日、ドイツのデュイスブルクで開催された「ラブパレード」の会場で起きた事故を直ぐに思い出した。会場の入口で事故が発生し、人々がパニックに陥り、21人が犠牲となり、500人余りが重軽傷を負う大惨事だった。その時も、逃げまどう人々の姿がニュースで放映された。
人は容易にパニックに陥る。「爆竹」を「爆弾」と勘違いし、「テロ」と判断して逃げ出すファンたちの姿はそのことを教えている。欧州でイスラム過激派テロ事件が頻繁に発生している。そのニュースを見てきた欧州人の脳裏には程度の差こそあれテロへの潜在的な恐怖心が刻み込まれていく。それが冷静な判断力を失わさせるのだろう。
なお、4日夜、マンチェスターの野外競技場で5万人以上のファンを集めて米人気歌手のアリアナ・グランデさんの慈善コンサートが開催された。5月24日の自爆テロ事件の犠牲者を追悼するコンサートだ。「One Love Manchester」をモットーに地元マンチェスター出身の元「オアシス」のボーカル、リアム・ギャラガーさんやジャスティン・ビーバーさんらも参加した。欧州の主要テレビ局は同慈善コンサートをライブ中継した。
世界各地で様々なイベントが開かれている。イスラム過激派テロ組織は今後も警備が難しいソフトターゲットに的を絞ってテロを繰り返してくるだろう。多くの人々が集まるコンサートやスポーツ・イベントのテロ対策は大きな課題だ。テロ対策はもはや治安警備強化だけでは十分ではない。時間はかかるが、テロの根源の解明が重要だ。具体的には、移民と統合問題、若者の失業、貧富の格差問題、そして宗派間の超教派活動などだ。いずれにしても、宗教指導者の役割はやはり大きい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。