「みえる電話」は多くの人の役に立つ

聴覚障害者はどのように電話を利用するのだろうか。欧米では電話リレーサービス(TRS)がユニバーサルサービスの一環として提供されてきた。障害者と通話相手の間で電話交換手がサービスを提供するのがTRSである。障害者がテキストをタイプすると電話交換手が通話相手に読み上げ、相手の返事は電話交換手がテキストに代えて障害者に伝える。

わが国でもTRSの必要性が障害者の社会的包摂の観点から叫ばれてきた。しかし、電電公社が民営化されて以来、電話交換手は減る一方で、サービス提供は今さら困難だった。日本財団が立ち上がりTRS提供事業者に資金援助しているが、欧米のように広く利用されているわけではない。

ところが最近、NTTドコモが「みえる電話」というサービスを試行し始めた。これは、電話交換手の代わりに、音声認識・音声合成マシンが間に立つサービスである。「みえる電話」では通話相手の言葉がリアルタイムにスマートフォン画面に表示される。情報通信技術の急速な発展によって人手を利用するTRSが置き換えられるのはよいことだ。

NTTドコモは「みえる電話」の機能を留守番電話サービスでも提供すると報道発表した。「みえる留守電機能」は留守番電話の内容がテキストで表示され、そのままショートメールで返信もできる。留守番電話サービスを契約していれば追加料金はかからない。

障害者に配慮して「みえる電話」を開発したら、より多くの人々を対象にした「みえる留守電機能」に発展したということになる。鉄道駅のエレベータ・エスカレータも、交通バリアフリー法によって義務化された障害者のための設備であった。しかし、今ではほとんどの人が利用している。障害者に対応する技術というとマイナーに聞こえるかもしれないが、経済社会に対するインパクトが大きい場合もあるのだ。