【映画評】怪物はささやく

Ost: a Monster Calls
Ost: a Monster Calls [CD]
イギリスに住む13歳の少年コナーは、難しい病気を抱えた母と二人で、墓地が見える家で暮らしている。コナーは毎晩のように悪夢にうなされていたが、ある夜、樹木の姿をした怪物がやってくる。怪物はコナーに3つの真実の物語を語るから、4つめはコナーが隠している物語を話せと迫る…。怪物が語る奇妙な真実の物語を通して人間の本質に迫っていくダーク・ファンタジー「怪物はささやく」。原作は児童文学で、シヴォーン・ダウドの未完の遺作を、パトリック・ネスが引き継いで完成させた。ネスは本作で脚本も担当している。スペイン出身の監督J.A.バヨナは長編デビュー作「永遠のこどもたち」同様、本作でも母親と息子の関係性に重点を置いて、現実と空想の間を行き来する不思議なストーリーを作り上げた。主人公のコナー少年が生きる現実は、とてつもなく過酷である。母はガンのためゆっくりと死に向かっており、母と離婚した父は遠いアメリカで新しい家庭を持っている。怖い祖母とは折り合いが悪い。学校ではいじめを受けている。彼の周囲は苦難に満ち、居場所がないコナーは毎晩悪夢にうなされているのだ。そんなコナーに、巨大なイチイの木の姿をした怪物が語る物語は、決して単純なおとぎ話ではない。3つの真実の物語は、どれも意外な結末でコナーを翻弄し、現実の不条理をつきつける寓話である。怪物は、安易なハッピーエンドや単純な善悪でコナーを子ども扱いせず、人間としてしっかり現実と対峙できるよう導こうとしているのだ。そして、ついにコナーが心の奥底にひた隠す真実の物語を話すときが訪れる。コナーが話す“告白”は、衝撃的だが切なく、激しく胸が揺さぶられるものだ。何千年も生きて、人間の美醜のすべてを見てきた怪物は、決して恐ろしいだけの存在ではない。コナーのメンターであり、コナーの心の奥底にある潜在意識であり、母親からのメッセンジャーでもある。幻想的なアニメーションの素晴らしいビジュアル、怪物の声を担当するリーアム・ニーソンの深くしみいるような声、コナーを演じるルイス・マクドゥーガル少年の繊細な演技が心に残る。そして原作にはない新たな結末が深い余韻と感動を残してくれた。物語の力を描く映画は数多く存在するが、本作の物語はどれも複雑で深く、考えさせられるものばかりだ。不安な現代を生きるための沢山のヒントが隠されている秀作である。
【85点】
(原題「A MONSTER CALLS」)
(米・スペイン/J・A・バヨナ監督/ルイス・マクドゥーガル、フェリシティ・ジョーンズ、リーアム・ニーソン、他)
(大人向け度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月9日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。