巨人が8日夜の交流戦で2対13と惨敗を喫したことで、球団の連敗記録を更新する13連敗を記録した。責任追及を求める声があるようだが、ヤクルトも同日の試合で、0対15と惨敗をしており、チームの状況ははるかに巨人よりも悪い。
ヤクルトを弱小だと考えている人が多いと思うが、セリーグでは巨人に次ぐ強豪として知られている。日本一の回数は、巨人に次いで2位の7回を数えている。実は、私は小学校2年生からのヤクルトフアンである。宝物はホーナー選手のサインボールだ。
自分が贔屓するチームが勝てば、フアンにとってこれほど嬉しいことはない。ところが、スポーツに関しては、必ずしも強いものがフアンの支持を集めるわけでもない。ここには絶妙なブランド構築のヒントが隠されているようだ。
事業家の、立川光昭(以下、立川氏)は、ラボトニツキ(マケドニアの1部リーグ)を買収するなど、サッカーに造詣が深いことで知られている(参考:スポーツマーケティング・ナレッジ)。近著には『ユダヤから学んだモノの売り方』(秀和システム)がある。
強豪だから支持されるわけではない
――立川氏によれば、あるサッカーチームのケースが興味深いとのことだ。チーム名は「ヴァンフォーレ甲府」。山梨県で唯一のプロサッカーチームである。
「ヴァンフォーレ甲府は、県民の多くのフアンにより支えられているチームです。ただ、お世辞にも強豪とはいえません。いい選手が出てくると他のチームに取られてしまい、予算がないために、人材の補強もうまくできない状態が続いていました。実は、スポーツチームの運営において、あまり知られていない事実があります。」(立川氏)
「ほとんどのチームの運営サイドが勘違いしています。それは、チームが強くなることだけがチームの人気を高めたり、運営をうまくいかせることではないということです。」(同)
――強いチームは露出が高まり、スポンサーが集まりやすくなる。運営のための資金が増える傾向にあることは間違いない。やはり強くあるべきではないのか?
「これまで、私がコンサルタントを引き受けたJリーグのチームでも、強くなりさえすれば、スポンサーが増えると思い込んでいるチームも、実際のところ多いものでした。ただ愛されるチームづくりや資金調達を可能にするかは、チームが強くなることだけではありません。まずは、ファンの満足度を高めることが必要です。」(立川氏)
「そこからチームの『ブランド価値』さえ上げられればいいのです。ヴァンフォーレ甲府は、その点、とてもうまい運営をしているチームといえます。」(同)
――「ブランド」とは、簡単にいえば「名前を聞いただけで、商品のイメージが浮かび上がるような付加価値」のことを表す。ルイ・ヴィトン、ベンツ、ソニー。ブランド力が強ければブランドのイメージだけで、迷うことなく商品が選択される。
ヴァンフォーレ甲府の付加価値とは
――「ヴァンフォーレ甲府」には、一体どんな付加価値があるのだろうか。
「それは、地元山梨のために頑張るサッカーチームであるということ。ヴァンフォーレ甲府のスポンサーとなっている企業に武田食品という会社がありますが、この会社はそうしたチームの付加価値を上手に生かしています。同社は、牛乳のパッケージに、チームのマスコットキャラが印刷された、タイアッブ商品をつくって売っています。」(立川氏)
「その影響で、山梨県内のスーパーに行けば、チームのマスコットキャラの入った牛乳が目立つように並んでいます。子どもたちの間では、『ヴァンフォーレの牛乳はいい』と評判になっているようです。」(同)
――県内にブランドが浸透しているというだろう。ヴァンフォーレ甲府のスポンサーとなっている企業は、十分なメリットを享受できているようである。
「チームのファンであれば、100円で売っている牛乳が、ロゴ入り120円で売っていたとしても買ってくれるでしょう。スポンサー側の企業も、そこから得られた利益で、さらにチームを支援するという好循環につなげることができます。『ファンの満足』『スポンサーの増収』という、2つの要素を満たしブランド価値を高めるという図式です。」(立川氏)
「すでに存在するお客さんに、より高次元の満足を提供して、企業の認知度や信頼感を上げることにもなります。日本的な考え方でもある、『相手の喜びを察する』という視点を加えている点も、ファンのより大きな満足につながったのではと私は見ています。」(同)
――スポーツは必ずしも強豪である必要はないことの好例かも知れない。
ここがユダヤ式マーケティングの真髄
「私がユダヤ系商社に在籍していたことは以前にもお話したと思います。実はユダヤのビジネスの真髄は売るモノを選ばないことです。スポーツでいえば、「強いチーム」がいいチームという判断にはならず、『どんなお客が来るのか』『どんな可能性があるのか』までを見極めるのがユダヤ式です。」(立川氏)
「ヴァンフォーレ甲府の運営方法は、かつての日本方式ではなく、ユダヤ式に似ているのではないかと思います。ユダヤの合理性と日本の感性、この2つがミックスすればどんなビジネスでも成功します。」(同)
――スポーツチームの運営は、何もチームを強くすることだけが手段ではない。ファンの満足度を高めるための施策を講じることでビジネスとして成立するのである。
参考書籍
『ユダヤから学んだモノの売り方』(秀和システム)
尾藤克之
コラムニスト
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