欧州中央銀行(ECB)は8日、エストニアの観光名所タリンで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。金利据え置きは5回連続で、現状の低金利を長きにわたって継続する意思を示す。また、2016年12月に決定した資産買い入れプログラム(APP)の変更を堅持した。
ドラギ総裁、記者会見のポイントは以下の通り。今回は「より低い水準に」との文言を削除し、利下げバイアスを外した。
(緩和策について)
・金利は資産買入の時期をさらに超える長きにわたり、現状の水準で据え置かれると予想
→前回は「金利は資産買入の時期をさらに超える長きにわたり、現状あるいはそれ以下の水準で推移すると予想」
・資産買入プログラムは2017年12月まで600億ドルで続け、インフレが持続的に調整するまで、必要ならばそれ以上にわたって継続
・インフレ圧力が高まり物価動向を支援するまで、非常に大規模な緩和策が依然として必要
・必要であれば、資産買入プログラムを規模と期間において拡大する用意がある→前回は「見通しが良好でなければ、資産買入プログラムを規模と期間において拡大する用意がある」
・我々は忍耐強く、かつ確信を持つことが必要だ
(経済見通しについて)
・経済指標を受け、ユーロ圏経済の力強いモメンタムを確認
・ユーロ圏経済見通しのリスクは概して均衡
→前回は「ユーロ圏成長見通しのリスクは均衡へ向かいつつある一方で、未だ下方向へ傾いている」、「ユーロ圏経済の循環的な改善は一段と底堅さを増し、下方リスクはさらに減退した」
・ユーロ圏経済の拡大はインフレの力強さに反映されておらず、インフレ動向は引き続き抑制的
→前回は「インフレ率はエネルギー価格や食品価格の影響で上昇したが、足元のインフレ圧力は抑制されたままで、明白な上方トレンドは未だ確認していない」
・世界的なマクロ経済に関連し、下振れリスクは引き続き残存する
・デフレのリスクは、もはやない
→前回は「デフレのリスクは事実上、消えた」
ユーポンド、ECB定例理事会後の8日こそ売り優勢でしたが・・。
(出所:DailyFX)
ECBスタッフによる経済見通し、改訂版は以下の通り。ドラギECB総裁が経済見通しに明るさを表明したように、成長見通しは概して上方修正された。一方でインフレ見通しは、予想通り下方修正が目立つ。
2017年見通し
GDP 1.9%
HICP 1.5%
コアHICP 1.1%
2017年見通し(3月時点)
GDP 1.8%
HICP 1.7%
コアHICP 1.1%
2018年見通し
GDP 1.8%
HICP 1.3%
コアHICP 1.4%
2018年見通し(3月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.6%
コアHICP 1.5%
2019年見通し
GDP 1.7%
HICP 1.6%
コアHICP 1.7%
2019年見通し(3月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.7%
コアHICP 1.8%
――ショイブレ独財務相やバイトマン独連銀総裁が緩和策の解除を執拗に求めるなか、少なくとも利下げの選択肢を外したことが歩み寄りました。ただしドラギ総裁は記者会見で量的緩和を継続する意思を強調し、インフレ見通しも下方修正されハト派寄り姿勢を崩していません。成長見通し引き上げでユーロ高が加速することを排除したかったでしょうし、英総選挙後の対ポンドでのユーロ高を抑制する意図も伺えます。ただし、英総選挙で保守党が過半数を割り込んだためポンド安が加速、ECBの努力は水泡に帰した印象は拭えません。
(カバー写真:European Central Bank/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年6月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。