組織に「不可欠な人材」はいらない!

荘司 雅彦

私が20代でサラリーマンをやっていた頃のことだと思います。次のような話(記憶では実話)がありました。

大企業で出世頭だった40代(?)の男性が病気で入院しました。彼を見舞いにきた上司が「君がいなくても仕事はきちんと回っているから、安心して療養してくれたまえ」と言ったそうです。その後ほどなく彼は自殺してしまいました。「自分は会社にとって不要な人間になってしまったのだ」と絶望して。上司の温情が仇となってしまったのです。

昭和のモーレツサラリーマンならではの話ですが、今でも「自分は会社にとって不可欠な存在だ」と思い込んでいる人が少なくありません。

私くらいの年齢になると、「お前はもう必要ないと言われるまでは頑張る」とか「必要とされている以上、もう少し尽くす」と口走る同年輩がいます。

しかしながら、ほとんどの大組織では、誰かがいなくなっても補充要員はたくさんいるので困ることはありません。逆に「上のポストがひとつ空くことで」出世できる人もいます。本人の気合とは逆に、ほとんどのケースでは引退は大歓迎なのです。

人間は誰しも、「自己評価」が「客観的評価」よりも高いのです。ある企業で「あなたは組織内で平均以上か平均以下か?」というアンケートをとったところ、ほとんどの人が「平均以上」と回答したそうです。
100人の組織であれば、50人が平均以上で50人が平均以下となるので、ほとんどの人が「自分は上位50人に入っている」と評価したことになります。

このように、自分が思っているほど組織は自分を必要としていないと開き直れば、”体に鞭打って滅私奉公”する必要など全くないということが理解いただけるでしょう。

逆に、「不可欠な人材」を作ってしまうと組織のとって大きなボトルネックとなります。
数年前知人から聞いた話ですが、大手建設会社の経理部に「わがまま放題の女性社員」がいました。周囲の人間関係も険悪で公然と上司に逆らうこともありました。

「どうしてクビとまではいかなくとも配置転換しないのか?」と私が訊ねると、「彼女は自分にしかできない仕事を囲い込んでいるので、彼女がいないと経理部の仕事が回らなくなるんだ。代々の課長は次の人事異動までじっと我慢し、今の課長もそうなんだ」との答えが返ってきました。

中小企業では、このようなボトルネック社員の存在をよく見かけます。
先の女性社員のように「わがまま放題」では決してなく、周囲との関係も良好で経営者からも信頼されているケースの方が多いというのが私の経験です。

ところが、ボトルネックとなっている従業員が転職や退職するということで、頭を抱えた経営者が相談に来ることが何度かありました。「彼(彼女)がいないと仕事が回っていかないのです。何とか翻意させる方法はないでしょうか?」と相談されるのですが、法定の期間(月給制であれば、月の前半に申し出た場合は月末まで、月の後半に申し出た場合は翌月末まで。日給制等の場合は申し出から2週間)を越えて拘束することはできないので、「本人の意思が固いのであれば、しっかり引き継ぎをしてもらうしかありません。」と回答するしかありませんでした。

このように、組織にとって「ボトルネックとなる不可欠の人材」を作ってしまわないことが経営者や人事部にとっては極めて重要な課題です。業務内容を組織内で透明化するのはもちろん、時々人員配置を変えて複数の社員がひとつの仕事をいつでもこなせるようにしておければ理想的でしょう。

転職や退職ならまだしも、生身の人間には何が起こるかわかりません。突然の事故や病気で仕事ができなくなることだっていくらでもあるのです。組織に「不可欠な人材」を作らないことは極めて重大な危機管理だと再認識して下さいね。

荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

※今月発売の新著です。余暇時間の争奪戦が激化している中、最短数分もあれば実生活に役立てるよう工夫しました。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。