“共謀罪”落としどころあれこれ②

早川 忠孝

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対象犯罪のうちの「資金源犯罪」をもっと絞り込んでみては?

衆院法務委員会で参考人に立った早川氏(衆院公式サイト:編集部)

個別の罪名についてどこまでの検討をすればほどほどのところに落とし込めるのかという判断はそう簡単に出来るようなことではないので、私自身は、あまりこの種の議論には深入りしないことにしている。

捜査の現場におられる方々や検察官の経験がある方、この種の事件を手掛けたことがある弁護士や裁判官の方々の間で相当シビアな議論をしていただかないと、この種事件を手掛けたことがない普通の弁護士や国会議員にはなかなか本当の問題の所在が理解できないものである。

市民運動や労働運動、反戦活動などを経験されている方々や権力と真正面から対峙するような厳しい刑事事件の弁護や支援活動をされている方々は、警察や検察、裁判所が実際にどういう法の適用なり運用をするかを身をもって経験していることが多いから、刑事司法の世界に新しい犯罪類型を導入する時にはそういう方々の意見をしっかり聞いておいた方がいい、というのが、私が私の拙い経験から学んできた教訓なので、私は出来るだけそういう現場におられる方々の話を聞くように努めている。

私自身が経験していないことでも、様々な経験をしておられる方々の話を聞けば、ある程度は本当の問題の所在を把握できるようになるはずだ、と思っている。

今国会で審議中の共謀罪関連法案では、対象犯罪を277と相当絞り込んでいるから、それなりに慎重に検討されてきているのだろうと思ってはいる。

しかし、10年前に私が自民党の法務部会の中の条約刑法に関する小委員会の事務局長として成案を得た時の対象犯罪は、123から155の間だった。
(ちなみに、私の手元にある記録では、Aのケースで128、Bのケースで151、Cのケースで162となっているが、これは2007年2月20日段階の未定稿となっている。2月20日以降の検討で対処犯罪が123から155の間となったようだが、何故123から155の間となったのかは、私には確認できない。)

もっと絞り込めるはずだ、と私が繰り返し言っているのは、10年前には法務省の担当者も外務省の担当者もこれで結構です、と言っていたからである。

当時のことを知っている国会議員がいないからと言って、当時の議論を無視するようなことはして欲しくないな、というのが、私の率直な感想である。

私の手元にある資料でテロ等謀議罪(当時の小委員会で採用した共謀罪に代わる新たな名称。現在のテロ等準備罪の発想と同根のものである。)の対象犯罪は、「1、テロ犯罪、2、薬物犯罪、3、銃器等犯罪、4、密入国・人身取引等犯罪、5、その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」の五つの類型に分類されていた。

対象犯罪の数が、123から155の間となったのは、「5、その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」がさらに「ア、典型性が高いと考えられるもの、イ、その他、犯罪組織が関与すると思われるもの、ウ、検討を要するもの」の三つに区分されており、テロ犯罪、薬物犯罪、銃器等犯罪、密入国・人身取引犯罪にプラスする対象犯罪をどこまで拡げるべきか、という考え方の相違によるものである。

最終的な成案がどうして123から155になったのかについて私は答えることが出来ないのだが、2007年2月20日の段階では、「5、その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」の内「ア、典型性が高いと考えられるもの」に限定すれば、128、「ア、典型性が高いと考えられるもの、イ、その他、犯罪組織が関与すると思われるもの」とすれば151、「ウ、検討を要するもの」まで包含するとすれば162になっていた。

政府与党は、一日も早く国会を閉じたいようだが、やはり審議は尽くすべきである。

対象犯罪の更なる絞り込みが可能なはずだと信じている。

「5、その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」を一つ一つ丁寧に検討して行けば、自ずからそこそこの結論が得られるのではないだろうか。

法案の成立を急いで審議を打ち切って強行採決に走ってしまうと、拙速だ、国民の本当の理解を得ていない、説明が不十分で強権的過ぎる、乱暴だ、などと、経済団体はじめ様々な団体から批判を浴びるような結果になるのではないかしら。

与野党を問わず、現職の国会議員の皆さんの良識に期待している。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。