通常国会は、後味の悪い幕切れだった。土壇場で文科省の怪文書の実物が出てきて、菅官房長官が謝罪に追い込まれたからだ。無敵だった彼の99勝1敗ぐらいで大勢に影響はないが、内閣支持率も落ちてきた。政権が加計学園をもみ消すために会期延長しなかったのは事実だろう。以下は憶測だが、この背後には警察の影がちらつく。
この問題は大した話ではなく、最初に怪文書が出てきたとき確認して「私的なメモなので問題ない」といえば終わりだった。それを文科省が「調査したが存在しない」といい、官房長官が「確認できない」と言い張り、前川元次官の下ネタに話をすり替えたことでややこしくなった。菅氏はこっちの問題には「さすがに強い違和感を覚えた」と珍しく感情をあらわにしてコメントした。
週刊朝日によれば、前川氏に「5月21日、文科省の後輩からメールで、『和泉(洋人首相補佐官)さんが話がしたいと言ったら会う意向はありますか』と、婉曲的な言い方のメール」が来て、同じ日に読売から「出会い系」について事実確認のメールが来たという。これが事実とすれば「読売の記事は官邸の謀略だ」という憶測にも根拠がある。
この時期に週刊新潮が山口敬之氏の「準強姦」騒動を書いたのも、偶然とは思えない。これも「警察は社会的生命を抹殺することも逮捕状を止めることもできる」というメッセージだったのかもしれない。事件の背後に見えるのは警察官僚、特に共謀罪の統括である警察庁組織犯罪対策部長、中村格氏の影だ。彼は山口氏の事件のときは警視庁刑事部長であり、前川氏の歌舞伎町の件の情報源ともいわれる。
中村氏は菅官房長官の秘書官だったので、かなり早い段階で彼らは情報を共有していただろう。加計学園そのものは小ネタだが、中村氏の最大の懸念は国会が空転して「テロ等準備罪」が流れることだったと思われる。オリンピックの警備体制を組む上で、パレルモ条約を批准する必要があるからだ。
そこで前川氏を一発で葬るネタが「出会い系バー」だった。昔の外務省機密漏洩事件のように、マスコミが下ネタに飛びついて形勢が逆転するはずだったが、相手の女性が「小遣いはもらったが何もしなかった」と証言するなど意外な展開を見せ、国会はかえって紛糾した。
真相は不明だが、少なくともいえるのは、国会で共謀罪法案を成立させる上で加計学園を「解決」することが官邸と警察の利益になったということだ。最大の問題はこんなつまらない話で国会を止めた野党にあるが、彼らにはそれ以外の武器はない。警察にはマスコミ(サツ回り)という強力な武器がある。共謀罪なんか使わなくても、警察は万引きや痴漢だけで地位ある人を社会的に葬れるのだ。