“共謀罪”関連法案を成立させてしまった方々の責任

 

法案成立を受け、記者会見する安倍首相(首相官邸サイト:編集部)

委員会での審議を途中で投げ出してのこの本会議採決の強行は、自民党の大失敗

参議院の皆さんは当分自分の選挙がないと思って、こういう乱暴なことをやってしまうのだろうが、私はこれが自民党にとっての大きな躓きの素になるような気がしている。

いつ解散総選挙になるか分からない、常在戦場の衆議院議員の方々ならもっと世論を恐れたはずなのだが、昨年選挙を終えたばかりの参議院議員の方々、2年間は選挙がない残りの参議院議員の方々は、まずは目先のことばかり考えて、衆議院議員一人一人のことにはそう関心がなさそうである。

熟議の参議院、再考の府の参議院にはあるまじき暴挙をしてしまったなあ、と言わざるを得ない。

政府や自民党は、テロ等準備罪を創設する法案だと繰り返して説明しているが、国際的組織犯罪防止条約締結のための国内法の整備が本当の立法事実だということは、国会の審議で明らかになっている。

国際的組織犯罪防止条約締結のための条件として共謀罪か参加罪を創設しなければならないという要請に基づいて、我が国は参加罪ではなく共謀罪を創設することを選択したのだから、今回の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等の一部を改正する法律案(いわゆる組織犯罪処罰法の改正法)」は、どこから見ても共謀罪関連法案だと言わざるを得なかったのだが、政府や自民党は最後まで「テロ等準備罪」で押し切ってしまった。

嘘も100回言えば本当らしく聞こえるようになる、ということを地で行ったようなものである。
ちょっとまやかしが過ぎませんか、と何度か声を上げたのだが、自民党の良識ある国会議員、特に参議院議員の方々の心に届かなかったようである。

残念と言わざるを得ない。

確かに国会を開けておくと、次々と答弁に困るような事態が現出して安倍内閣が窮地に追い込まれてしまう、うっかりすると公明党までそれに巻き込まれてしまう、と思って、何が何でも通常国会を閉じてしまうためにこういう異例な措置、私から言わせればトンデモナイ暴挙に出たのだが、私はこれが自民党にとって大きな禍根を残すことになるのではないかと心配している。

致命傷になるかどうかまでは分からないが、この傷は途轍もなく大きい。
トンデモナイところ、トンデモナイタイミングで大失敗しましたね、と申し上げておく。

さあて、民進党の皆さんは、次の一手を考えていますかね

まさか、皆さん、口をあんぐり開けて呆然としておられることはないと思うが、最近の民進党の皆さんには大した策がないようなのが心配である。

井手英策さんという如何にも策がありそうな方や民進党の外におられる知恵のある方々の意見を聞かれて、早急に態勢の立て直しをされた方がいい。

「組織的犯罪処罰法改正法の廃案を目指して、ガンバロー」などと共産党の方々と一緒にシュプレヒコールを上げたくらいではとても役に立たない。
次の選挙に勝って安倍内閣の退陣を求めよう、などといくら大きな声を上げても、今の政治状況では実に虚しく響くだけである。

やはり具体的な対案を示さない限り、大方の国民の共感なり賛同を得ることは出来ない。

廃案は、対案に非ず。

よりよい修正案を提示できるように、原点に戻ってあれこれ知恵を絞ることである。
改正法が成立した以上は、改正法の問題点を徹底的に究明して、自民党や公明党の良識ある国会議員の心を捉えられるような、改正法修正法案を策定することである。

民進党の中にも単なる廃案を求めるのではなく、よりよい修正案を作りたいと懸命に勉強しておられた若い国会議員がおられたはずである。
そういう方々を中心に、民進党としてこれからどうしていくのか、真剣に議論された方がいい。

口をあんぐり開けたまま、政府与党がやることをじっと黙って見ているようなことは止めておかれることだ。

少しでも、前に進むべし。
あえて、そう申し上げておく。

本当に大丈夫かなあ、と思いながら共謀罪関連法案を成立させてしまった方々の責任

与野党を問わず、この法律を成立させてしまった方々には相応の責任がある、ということを認識していただきたい。
国会議員の方々の方々の監視が行き届かないと、どんな乱暴なことが罷り通るかも分からないのが、警察の現場だ、ぐらいの感覚を持ち合わせておいていただきたい。

通常は、警察は頼りになる存在だが、警察の現場は職務熱心のあまり暴走したり、警察の組織防衛のために自分たちの不祥事隠しに走ってしまうことがある。

警察組織の中にも成績主義が蔓延っており、昇進のために点数稼ぎをするような警察官が現れないとも限らない。
検挙件数が低いと無能の烙印を押されかねない、という職場環境の中では、とにかく検挙実績を残そうとして、暴力団員に拳銃を渡し、これを警察に提出させて一件検挙したように報告するような事例も出てきているようであり、警察の現場を無条件に信用してしまうことはよくない。

交通取締まりの現場で警察官と口論したことがあるならある程度お分かりになるだろうが、警察から目を付けられたり、警察と真正面から対峙するようなことにでもなったら、実に危ないことになる。

警察官の身体に1ミリも触れてもいないのに、公務執行妨害だと脅かされて逮捕寸前まで行ったり、あらぬ嫌疑を掛けられるようなこともある。

痴漢冤罪事件がしばしば発生するが、一旦警察官から痴漢と思われてしまうと、警察官の間違いを正すのは結構厄介だ。警察官の予断や偏見は、そう簡単には正せない。

警察官が怪しい人間だと思えば、普通の一般人でも怪しいということになる。
変な連中と付き合っているな、変な連中と何かよからぬ相談をしているな、ということになると、とにかく怪しいから調べてみろ、ということになる。

変な連中かどうかは、実際に調べてみないと分からないから、単に風体がおかしい、目付きがおかしい、言動がおかしい、といった些細なことで、まずは怪しい人間のリスト入りをしてしまうかも知れない。

変な連中が何かよからぬ相談をしている、というのも、実際には調べてみなければ分からない。

いわゆる共謀罪関連法案は、277もの犯罪を計画したこと自体を処罰の対象とするものだから、何をもって計画したと認定するのか、ということが明確に定義されていないと、実に様々な態様のものが「計画」の中に入ってくることになる。

それこそ黙示の合意も計画の内、目配せも計画の内、などということになってしまえば、際限なく捜査の対象が拡がっていくことになる。

いや、テロ等準備罪はあくまで組織的犯罪集団の構成員やその周辺にいる組織的犯罪と密接な関係を有する者に限定されていますよ、などと言っても、組織的犯罪集団かどうか、組織的犯罪集団の構成員または組織的犯罪集団と密接な関係を有する者かどうかも実際には調べてみなければ分からない。

警察は犯罪の嫌疑があれば捜査する権限があり、一応の嫌疑があって捜査した結果、何等の犯罪も行っていないことが判明しても、その捜査自体は違法にならないという扱いだから、結局は警察の認定自体で捜査の対象が一般の、何も犯罪に関わっていない一般人にまで拡がっていく可能性は平定できない。

起訴権限を有する検察官は、改正された組織犯罪処罰法の構成要件のすべてを満たさなければ起訴しないだろうが、警察の捜査の段階ではまだそこまでのことは分からないのが通常である。
犯罪の構成要件を満たすかどうかは調べなければ、すなわち捜査を遂げなければ分からないのだが、捜査の端緒は実にささやかなところにある、というのが警察捜査の現場の実情だろう。

あいつは怪しい、という思い込みが、しばしばトンデモナイ冤罪事件を引き起こす。
素行不良だったり、過去に犯罪歴があったり、変な集会に参加したり、変な団体に所属したり、変なものを所持していたり、変なものを購入していたり・・・。

匿名の投書が捜査の端緒になったりすることもあるのだから、277の犯罪について計画の段階で処罰できるようになった、ということは、警察に大変な捜査権限が付与された、ということと同旨である。

警察の捜査をチェックする有効な仕組みを導入しないままに共謀罪関連法案を可決させた国会議員の皆さんの責任は実に重大だと言わざるを得ない。

どうも皆さん、こういうことに無頓着だ。
この法律のどこにどんな問題があるのか、まったく認識されていないようだ。

実に困った事態になっている、ということをとりあえずお伝えしておく。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年6月15日の「共謀罪」関連記事をまとめて転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。