6月14日(水)、IEA(国際エネルギー機関)は恒例の月報(Oil Market Report)6月号を発表し、2017年後半は需要が供給を上回るものの、2018年は米シェールの増産量が大きく、結果として供給が需要を上回りそうだ、と発表した。
これを受けて先物相場は大幅な下落を見せ、NYMEXのWTIは1.73ドル下落の44.73ドルの終値となった。取引量は19億バレル弱と膨らんだが、未決済取引残高は4日連続で減少し、21億8,000万バレル弱となっている。
また、目先の落ち込みほどには期先の価格は下がっておらず、各年の12月ものの終値は、17年45.02ドル、18年47.21ドル、19年48.12ドル、20年49.20ドル、21年50.49ドル、22年51.64ドルと、一時の水平状態からふたたびはっきりとしたコンタンゴ(先高)になっていることが興味深い。
2018年の供給過剰をもたらすのは、米シェールの急速な増産見通しだ。
IEAハイライトには詳細の記述がないが、筆者はエクソンやシェブロンなど、財務体質の強い大手石油会社が、昨年来短期、小規模投資に重点を移し、米シェールの開発活動を強化していることがこの背景にあるものと判断している。彼らは中小のシェール業者と異なり、外部資金には頼っておらず、市況の短期的な上下動には影響されずに投資活動を継続できる体質をもっているからだ。
FTの “US shale resurgence will boost global oil supply, says IEA” (around 01:00 on June 15 Tokyo time) という記事の内容を次のとおり紹介しておこう。
・水曜日発行のIEA予測によると、米国シェールの復活により世界全体の2018年供給は需要を上回り、価格上昇を目論んだPEC/非OPECの協調減産9ヶ月延長を打ち砕くことになりそうだ。
・IEA予測によると、2018年の世界需要は前年比140万BD増となり、2017年の130万BD増を上回る見込みだ。中国およびインドの需要増により2018年後半には、歴史上初めての1億BD超えとなる見込み(2018年平均は9,930万BD)。
・だがこの需要増は、2017年の倍以上のスピードで増産を続ける、米シェール(78万BD増)に代表される非OPECの供給増(前年比150万BD)に打ち消されてしまうだろう。なお、米シェールの2017年増産は43万BD。
・一方IEAは、2017年後半は需要が供給を上回ると見ている。
・OPEC/非OPECは、協調減産により大幅過剰な在庫の解消を狙っているが、OECD諸国の商業用在庫は、4月末時点において過去5年平均対比まだ2億9,300万バレル多い水準となっている。これを解消するには、現状、来年3月までかかる見通し(293百万バレル÷270日=109万BD)だ。
・一方、5月のOPEC生産量は、減産が免除されているリビア、ナイジェリアの生産が増えたため、3,200万BDとなっている。
価格を上げるためにシェールの増産を抑えるべく、サウジが主導して先物相場のコンタンゴ(先高)を解消し、バクワデーション(先安)にすべきだ、主張する向きもあるが現実的ではないだろう。
将来の生産原油販売のヘッジとして、現在の、たとえば50ドルで長期にわたり、相当量を売り続ける、というのが方策だが、それは将来収入を50ドルで固定してしまい、サウジアラムコのIPOも魅力を失うものとなろう。
それが出来るなら、大幅な歳出削減策を取り、予算案を油価50ドル前提でバランスするように作成する方がベターだ。ヘッジしなければ、アップサイドポテンシャル(将来、価格が上昇したら果実をエンジョイできる)の期待が残る。
だが、昨年秋に導入した公務員の福利厚生費用などの削減策を、あまりの不人気に今年春、全面撤回せざるを得なくなったという現実を考えると、これも実現不可能なのだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月15日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。