組織の掟と法律、比重が変わっていることにご注意を!

先般送られてきた日弁連の「自由と正義」の、”懲戒処分公告”を見ていて興味深いものを見つけました。

女性のスカートの中を3回盗撮(盗撮しようとしたも含む)した弁護士の処分が「業務停止6月」。その右の欄の、「事件処理を進めなかった」「会費を滞納した」「登録換えした所に事務所を構えなかった」弁護士の処分が「退会命令」。弁護士会は強制加入団体なので、「退会命令」を受けると弁護士資格を失います。最も重い処分です。

詳細を知らないので評価は控えますが、女性のスカート内を盗撮するのは犯罪です(迷惑防止条例違反)。警察に逮捕されて処罰されます。しかし、「事件処理を進めなかった」「会費を滞納した」等々は犯罪にはなりません。法的には民事事件にしかならず、損害賠償なり会費の支払いを求めて提訴し、支払わなければ強制執行ということになります。

日弁連の内部の規定(掟)によると、盗撮よりも会費滞納等の方が処分が重いということになるのかもしれません。もしくは、盗撮した弁護士は刑事処分を受けているので、内部処分としては「業務停止」に止めたのかもしれません。

弁護士会に限らず、ほとんどの組織には「内部規定」があります。就業規則という明確なものだけでなく、”暗黙の了解”のような掟の方が強力であるのが一般的です。

組織という形態をとっていなくとも、人間が集まると”法律とは別個の内部の掟”ができるのが一般的です。
町内会やママ友の会で、新規参入者が”新入り”として扱われるのも、先輩・後輩という序列が掟として存在するからです。暴力団の兄貴分と弟分というのも、内部の掟です(先輩、年長者、実績などで決まるのかもしれません)。

従来の企業では、内部の掟が法律よりも優先するのが当たり前という空気がありました。
昨今、バブル時代の企業不祥事が回顧されていますが、あの当時は「会社を守る」という規範の方が「法律を守る」という規範よりはるかに優先されたのでしょう。

殺人や傷害という粗暴的な犯罪でなければ、”会社のために”粉飾をしたり、贈賄をしたり、証取法違反をするなどは、全くと言っていいほど抵抗感がなかったのかもしれません。

私自身、銀行員の時の研修で講師の方が「これは日銀検査に引っかかるのまずいのですが…」と演壇でみんなに話しているのを聞いて、何の抵抗も感じませんでした。何の法律に触れるのか忘れましたが、”組織の掟”が優先すると信じて疑わなかったのです。

このように”組織の掟”が法律等に優先した背景には、密な人間関係という存在がありました。昔は終身雇用で社宅があり独身寮があり、会社は一つの大きな家族でした。構成員は密な人間関係を持った親子兄弟のようなものでした。

家族を守ることが法律よりも優先するのは、人間の意識としては極めて当然のことなのです。本当の家族である親や子供が犯罪者の場合、家族が匿っても犯人蔵匿・隠避の罪には問われません。自分の親や子供を警察に引き渡すことまでは法律は強制していないのです。

暴力団やマフィアの組員が同僚のことを”兄弟”と呼んでいるのは、家族(ファミリー)としての絆を強めて、法律よりも内部の掟が優先することを確認するためなのかもしれません。

ところが、昨今の多くの会社組織は、構成員の多様化が進んでおり大家族の体(てい)をなしていない所が多くなっています。そうなると、家族である会社を守るよりも法律を優先する構成員が増えるのは当然の流れでしょう。会社の掟に従うよりも労基法を優先するので、違法残業などの内部告発がこれからはますます増加すると推測されます。

会社のためという”組織の掟”が、今でも最優先だと誤解している経営者諸氏は今すぐに意識変革をする必要があります。

会社を守るために法律違反をすれば、必ず内部告発がなされると覚悟すべきです。一昔前と違って、今の会社は大家族ではなく、構成員は子供でも兄弟でもないのですから…。

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。