東京時間の6月24日未明に掲載されたFTの記事 “Hedge funds turn from OPEC friend to adversary in oil market” を読んで、根拠としているデータを探してみたが見つからなかった。CFTCのNYMEXにおけるWTIに関するデータは見つかったのだが、ICEにおけるBrentのデータにたどり着けない。またNYMEXのBrentのデータは見つかったが、Open Interest(未決済取引残高)の量がWTIの4分の1ほどでしかない。Brentの主要取引市場はNYMEXではなく、やはりICE(Intercontinental Exchange)なのだ。
NYMEXのWTIデータを見ると、ヘッジファンド等が組み込まれているMoney Managersというグループの6月20日(火)のポジションは、5月9日(火)のものと比べてもネットロングが500万バレルほど減少しているだけで、FTが報じているように、ヘッジファンドが1億6,000万バレルという記録的なショートポジションを取っている、とは読めない。うーむ、理解不能だ。
そもそもMoney Managersには年金ファンドなども含まれており、彼らは基本的にインフレヘッジのロングポジションを取っているので、Money Managers全体としてはネットロングとなっている。
ヘッジファンドがネットショートとなっている、というのは、どのデータから読み取れるのだろうか。
なお前週比では、Money Managersのネットロングは5,700万バレル減少している。これはヘッジファンドが市場の動きに「悲観的」になっていることの証左と言えるだろう。
弊著『原油価格暴落の謎を解く』(文春新書、2016年6月)で解説したように、市場を監視しているCFTC(商品先物取引員会)は、不正取引を排除する方策の一つとして、取引業者を実需グループと非実需グループに分けて、1週間ごとにポジションを報告させている。
非実需グループはMoney Managersと呼ばれており “Hedge funds or other sophisticated traders” がこのグループを構成している。実需グループは “Physical Participants – producers, merchants, processors and end users” となっており、シェールの生産業者や精製業者、販売会社、あるいは航空会社などの消費者が含まれている。
悩ましいのは、店頭で行った取引の反対取引を先物市場で行っているので実需グループに入れられているSwap Dealersというグループが存在していることだ。彼らの「店頭取引」はいかなる「監視」も行われていないため、実態が把握できないという問題があるのだ。
また “Other Reportable” というグループもあるので、全体像の把握はさらに容易ではない。
FT記事の要点紹介は別途行うとして、ここでは「6月20日」のCFTCデータを紹介しておこう。(ネットは筆者の計算値。マイナスがネットショート)
2017年6月20日ポジション(単位:1,000バレル)
ロング ショート ネット
実需グループ 397,367 595,480 -198,113
(先週比 4,670 -8,305 +12,975)
Swap Dealers 205,036 366,637 -168,399
(先週比 -1,384 -4,700 3,316)
Managed Managers 299,982 189,233 110,749
(先週比 -17,210 40,668 -57,878)
Other Reportables 328,566 110,551 218,015
(先週比 6,449 -21,194 -27,643)
いやはや、現実を把握するのは難しいなぁ。
FT記事の要点
FTの記事 “Hedge funds turn from OPEC friend to adversary” (around 1:00am on June24, 2017 Tokyo time) を紹介しようとしたが、弊エネブロ#352では、最新データの分析、紹介でスペースが尽きてしまった。そこでこの#353で記事の要点を紹介しておこう。
・年が変わる頃OPECは、大手ヘッジファンドに秋波を送り、非公開で行った会合の場で、油価を60ドルに引き上げるべく減産する計画を伝えた。かつては「投機屋」と呼び、もっとも重要な商品である原油をカジノに送り込んだ主犯だと批判していたことと比べると大きな変化だ。だが同時に、(ロンドンの)メイフェアやコネチカットに事務所を構えるヘッジファンドが市場に重要な影響を与えることを認めたことでもある。
・だが6ヶ月を経て、両者の関係はズタズタになっている。トレーダーたちは、OPECが3年にわたる石油価格の低迷を解決することはできないと判断するようになっている。ベンチマークであるブレント原油は今年前半、過去20年間で最悪の2割の下落を示し、45ドル程度となっている。一時は価格上昇に記録的な賭けをしたヘッジファンドは、今では40ドル以下に落としこめると警告し、OPECリーダーであるサウジをして「出来ることはなんでもやる」と誓わせている。
・Merchant Commodity Fundの共同創設者Dong Kingは「もしヘッジファンドがOPECと戦うと決めれば、40ドル以下に落ち込むことは疑いがない」という。
・業界筋によると、先物市場や監督機関のデータに基づき、ヘッジファンドは2014年の100ドル台から昨年の30ドル割れまでの価格下落の動きと一体となった動きをしており、ときには市場をリードする役割を担ってきており、OPECはこの警告を真剣に受け止めるべきかもしれない。
・取引所のデータによると、Money ManagersのBrentのショートポジションー下落すると利益がでるーは記録的な1億6,300万バレルまで積み上がっている。
・今年後半には需給はタイトになるとして、ファンドは悲観的すぎる、と考えるアナリストもいるが、多くの人はOPECには時間がない、と信じている。
・いくつかの要因がOPEC等の、ほぼ遵守している180万BDの減産の試みを台無しにしている。もっとも重要なのが、今年になって価格が50ドル大となったことにより復活した米国シェールであり、来年には70万BD増え、米国全体の生産量を1,000万BDにすると見られている。さらに減産免除となっているナイジェリアおよびリビアも4Q16対比、60万BDの増産となっており、(減産実施前の昨年に増産して)溜め込んでおいたものを輸出することにより、井戸元では減産しているが輸出量を落としていないメンバーもいるのだ。
・ロンドンのコンサルタントEnergy AspectのAmrita Senは「これまで何度もOPECに痛めつけられてきたトレーダーたちが楽観的になれないことを責めることはできない」という。「現在の市場のセンチメントやファンダメンタルズを考えると、40ドル割れをすることはありうるし、誰も止めることはできない」
・リビア国営石油のMustafa Sanellaは、「国益」に基づいて行動する、という。「市場がバランスする中で、我々は自らのシェアーを取り戻しているのだと考えている」
・サウジはこの価格低下で最大のプレッシャーに直面している。今週、皇太子に就任したMbSは、サウジを脱石油化するとのことで人気を博しているが、来年のアラムコIPOを含め、その目標を達成するためには高い油価が必要だ。Standard CharteredのアナリストPaul Horsnellは、MbSが更なる劇的な減産を指示することはないだろう、サウジは、地域の敵対者イランに顧客を取られることには慎重だとして、「サウジは市場の力に動かされたと見られたくないと考えている」という。ファリハ大臣は、減産はいずれ効果をもたらす、として忍耐を呼びかけている。
・だが前述したKingは、OPECがさらなる減産をしなければ、トレーダーたちはさらにリスクを取って積極的に賭けに出るだろう、と信じている。
筆者は、次の理由から50ドル前後の価格帯で向こう1年くらい推移するのではとの見方になっている。
・6月14日のIEA月報で、今年後半には供給量が需要を下回るが、来年はふたたび供給過剰になるとの予測をした。IEAの来年の需給予測は今回が初めて。
・エクソンやシェブロンなどのスーパーメジャーがシェールに投資の重点を移しており、彼らは外部金融に頼っていないので、価格下落がしばらく続いてもシェールへの投資は継続する。すなわち、価格下落によるシェール増産のスピード鈍化、停止、減産へという2016年に見られて現象はしばらく起こらない。
・OPECによる更なる減産は、一時的な価格上昇をもたらすかもしれないが逆にシェールの増産を奨励することになるので、おそらく行わないだろう。
・ただし予測不可能なのがMbSの判断。当面、カタールへの「要求」に米国がどう対応するのかが焦点。
皆さんはどう思われますか?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月25日の記事で、「ヘッジファンドはOPECの友人から敵対者に」①②をまとめて転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。