ニック・バトラーがFTに掲題を書いている。原題はそのまま “A family coup in Saudi Arabia”、東京時間6月26日13:00ごろの掲載だ。
書き出しを読んで、ヨーロッパと中東の「近さ」を実感させられた。物理的距離もさることながら、歴史的・文化的つながりが日本とは段違いなのだ。
日本でニックのような、あるいはニックの友人・知人のような、中東との「距離感」を維持できている人がいるのだろうか?
さて、記事の要点を紹介しよう。
・一週間前、サウジアラビアの王家内で深刻な口論が起こっているとの微かな噂を耳にした。サルマン国王に31歳の副皇太子ムハンマド・ビン・サルマンを抑えさせ、3年間(ママ)の野心的だが不安定な混乱状態から正常に近い状態の戻させようという試みだと推測されていた。私はすぐに、このクーデターが石油市場をどう変え、サウジが新しいリーダーシップの下で価格下落を抑えるために何ができるかについて、メモを書き始めた。
・今になってみれば、噂は本当だったが推測は間違いだった。クーデターで勝利したのは、期待されていたムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子ではなく、MbSだった。彼は皇太子を追い払い、国内治安という重要な役割を含め、全権を掌握したのだった。ナーイフ王子は経験豊かな、尊敬されていたサウジのリーダーの一人だったが、跪いて嘆願している写真を撮られた。
・起こっていることはシェイクスピアの劇のようだ。サウド家の物語を記録に残すのには誰が相応しいのだろうか。病に苦しむ国王が支配一族のデリケートなバランスを壊して、信頼に足る明白な後継者だった男を押さえて、コンサルタントと銀行家たちに虚栄心を擽られた自らの息子を昇進させたのだ。
・これらはすべて、王国の唯一の収入が下落しており、宗教的対立の再来により地域が分断されている状況下、近隣諸国やかつての友人たちとの緊張が高まっている中で発生しており、我々はリア王とリチャード二世の中間にいるようだ。
・市場は悲観的に反応し、ブレント原油は45ドルまで下落した。MbSはかつて、石油価格は問題ではない、2020年までに王国の経済は石油収入に依存しないものになる、と言っていた。誰もが現実には不可能だと考えていたが、もし彼がやるなら、サウジが価格をどこまででも引き下げるという重大な問題になると考えた。サウジ以外にはどこにも、供給過剰をリバランスするために減産し、輸出量を減らせるところはないからだ。
・唯一の慰めは、我々がまだ第一幕の終わりにいるだけだということだ。サウジからまもっとニュースが来るだろう。間違った台詞であることは明白で、全権をMbSに委譲することによりそのことが数ヶ月先には表に出てくるだろう。
・経済を多様化することは少なくとも1980年代から国家の優先事項だった。だが、何もできなかった。(サウジの)ブライト&ベストたちは去っていた、男たちも、もちろん女たちも、二流市民とみなされることに疲れて。マッキンゼーによって描かれ、MbSが承認した多様化と近代化の壮大な計画は、砂よりも確固としたものを土台にしているわけではない。2030年への壮大な「ビジョン」はあるが、実行するメカニズムはない。
・二番目にサウジは、おそらくワシントンの信頼のおけない盟友以外からは孤立している。イエメンでの行動は地域の緊張を高めただけで、王国の防衛力の弱点をさらけ出した。油価の下落を許したサウジの決断に対する恨みは、OPECおよびOPEC外にも高まり、広がっている。
・三番目に、おそらくサウド家にとってもっとも危険なことだが、宗教権力者たちとの内部抗争がある。アブドラ国王やナーイフ王子の時代のような、ゆっくりとした寛容な改革および近代化に対して、現在の皇太子による壮大なビジョンには、宗教に残された余地がない。
・唯一の疑問は、不安定な中で次の行動がどこから起こってくるかだ。遠ざけられている王族の一部からか? イランか? ISISまたはサウジが崩壊しつつあるとみる原理主義者たちからか?
・MbSが2.6兆ドルとみているサウジアラムコの部分民営化への投資を考えている人々は、当然存在するコマーシャルな問題に加え、政治リスクがあることを認識している。アラムコ株売却の際には大幅な値引きが必須となった。
・舞台には次のドラマが待っている。サウド家には民主的正統性をもたないという弱点が代々あり、本当の意味での友人はいない。主目的は王家の存続だが、そのためには安定がもっとも必要だ。これはMbS登場前の前世紀、サウジ政策の特徴だった。
・歴史は、権力の奪取は長期的な成功をもたらさず、不安定だけをもたらすことを示している。正統性の欠如は、埋めるべく挑戦しようという空白を作りだす。最終的には、安定と秩序をもたらす人々が優遇される。
・シェイクスピアの多くの作品に共通して現れるものの一つは、秩序は混乱の中から生まれる、ということだ。そこに至るまでにはまだまだ多くの「場」がある。
・当面、新しく任命された皇太子はシェイクスピアの「ヘンリー四世第二部」の次の台詞の上にうまく乗っかっている。「王冠を戴く者は、安心して眠れない」
ふむふむ。シェイクスピアをきちんと読まなければ、ニックの真意は理解できないなぁ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月26日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。