インターネットを使った選挙(ネット選挙)がスタートしてまもなく4年。前回は解禁直前だったため、ネットでの発信がなかった都議選だが、この間、政界・選挙業界が3度の国政選、2度の都知事選を経験しており、国会や都議会に議席を有する政党・政治団体の立候補者であれば、もはや、老若男女を問わず、ウェブサイト、SNSでの発信は当たり前になってきた。毎日新聞が選挙期間中の話題として、ツイッター利用についてまとめてくれている。
都議選:若者へツイッターで発信 候補者の7割利用 – 毎日新聞
ツイッターは不特定多数との絡み合いも多いので、敬遠する候補者も少なくないが、それでも7割と増えたものだ。なにせ自民党のおじいちゃん現職の陣営まで一生懸命、発信しているのだ。
もちろん、フォロワーがまだ4ケタ行かない候補者も多い。これまで紙の広報など昭和型のアナログ発信に終始していたところ、テレビ・ネットを得意とする小池陣営の台頭で慌てたことで急ごしらえの感は否めないものの、解禁当初から選挙業界に片足を突っ込んできた身としては、隔世の感を感じてはいる。少数会派でもインフォグラフィックを配信して政策データをSNSで見せるなど、企画も多様化してきた。業界的には(選挙ウェブコンサルとしての)私の競合も増えてきたように思う。
事前にネットで演説場所を告知すると不毛なアレが発生?
そういう中で選挙戦当初、維新のツイッター発信が非常に低調だったのが気になった。まだ40代の候補者が主体だし、日頃は自分でツイートしている人も多いのだが、人手が足りないからか、いまや当たり前になった演説予定などの告知すらしていない。陣営関係者に内々に問い合わせたり、あるいは、改善が見られなくてつい苦言をツイートしてしまったものだが、おときた幹事長が選挙戦の合間にこんなことを指摘し、少しなるほどとは思った。
あーこれ、新田さんの言うことはもっともですが、場所を事前にTwitterで告知するとライバル陣営に取られてしまう場合があって、それを警戒しているケースもあるかと…。良し悪しはあると思いますけど、私も応援弁士が入るイベント的なもの以外は、あまり告知していません。 https://t.co/TEPwHv5HWM
— おときた駿(東京都議会議員 /北区選出) (@otokita) 2017年6月28日
実は、ネット選挙解禁当初、選挙戦が過熱する余り、おときた君の言っているような話はしばしば耳にした。その日のメインの街頭演説にと企画していたスポットに、他陣営が「嫌がらせ」で場所を先取りしたり、あるいはわざと選挙カーを乗り込ませて街宣で邪魔をしたりするというわけだ。
嫌がらせの被害は劣勢の陣営とは限らない。優勢の陣営も、党幹部らが応援に来る「勝負イベント」を中心街などで開催する時には、“失地”は許されないプレッシャーは大きい。
土曜のお昼過ぎに渋谷のスクランブル交差点でイベントをやるのであれば、陣営に入っている若手の区議や市議が前夜から車を乗り付け、徹夜での「場所取り」をする羽目になる。もしお昼前の微妙な時間に、よその陣営が邪魔する意図がない場合にも場所に入ってくるようであれば、場所の使用時間を現場で交渉もする。
私が過去に関わった都内の選挙では、早めにネットで告知を出しておくと、それに気づいた他陣営が事務所に電話をかけてきて使用時間の交渉をする程度で、幸いにも紳士的な状況だった。しかし、地域や情勢、対立構図、対決ムードの濃淡によっては、まさに仁義なき戦いになることもある。
大田区で仄聞した影の「紳士協定」
前置きが長くなったが、上記のおときた幹事長のやりとりを見ていた、ある陣営関係者が教えてくれたのだが、大田区では、そうした「不毛」な戦いにならないように、少なくとも主要政党の陣営間では、担当者があらかじめ、メインイベントの場所取りについては事前に連絡を取り合っているという。
大田区は世田谷区と並んで、定数が最も多い「8人区」。当然、候補者も乱立気味になるため、区内の主だったスポット、たとえば蒲田駅前あたりは土日に党重鎮クラスをお迎えしての勝負イベントには人気になるわけで、これが自由競争だったら、ただでさえ忙しい選挙戦にあって、徹夜の場所取りなど不毛なことをお互いにすることになる。どんなやりとりをしているのか、頼み込んで一端だけ見ることができたのだが、各陣営の担当者間で日程表をメールで共有し、希望の場所・時間帯を書き込み、バッティングしたら交渉しあうという流れのようだ。
もしかしたら、「談合みたいじゃないか」と厳しい事を言う人もいるかもしれないが、私はそうは思わない。前述の関係者は「党の違いはあれど、人間関係、信頼関係は損なわないよう、フェアにいきたい。いくら戦いとはいっても、なんでもありの不毛なことばかりが横行すれば、結局、建設的な議論は出来なくなってしまう」と指摘していた。私もこの考えに賛同する。一人でも多くの有権者と対話し、政策を磨き、ネットでの発信を充実させるといった本質的なことに少しでも注力できるわけだから、事前に紳士的に話し合うこと自体は、権謀術数が渦巻く政界であっても必要な「フェアプレー」だと思う。
大田区の都議選でのこうした「慣習」はいつ頃から始まったものかまでは分からなかったが、以前から行われているという。もしかしたら8人区で乱立傾向だったため、トラブルが積み重なったことにより、地域の政治関係者たちが生み出した“知恵”なのかもしれない。
ネット選挙が解禁して不毛なネガティブキャンペーンも横行する中にあって、政治の世界も「捨てたものではない」と思わせるようなマニアックな小ネタでした。残り少ない選挙戦、各陣営の健闘を祈ります。
(追伸)これは個人的な見解ですが、特にアゴラ執筆陣でもある4人の現職(おときた駿=北区、上田令子=江戸川区、川松真一朗=墨田区、やながせ裕文=大田区)、がんばってください。小池派と反小池派でちょうど2人ずつ。選挙後ぜひ、また激しく、しかし建設的な論戦をアゴラで繰り広げていただきたいと思います。
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