ドイツ連邦議会(下院)で先月30日午前、同性愛者の婚姻を認める法案(全ての人のための婚姻)の採決が実施され、賛成393、反対226、棄権4と賛成票多数で可決されたが、同法案が婚姻に関する基本法(憲法に該当)6条に反するという声が出てきている。
連邦議会にまだ議席を有しない新党の極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は同性婚法案の可決を受け、連邦憲法裁判所にその無効を訴えた。AfDのアレクサンダー・ガウランンド氏は、「同性間の婚姻を認めることはドイツ社会の共通の価値観を損なう危険性がある」と説明している。同氏がビルト日曜版とのインタビューの中で答えた。
ドイツで政党として同性婚にはっきりと反対しているのはもはや、「ドイツのための選択肢」(AfD)一党だけとなった。メルケル首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は党として同性婚にこれまで反対してきたが、メルケル首相が先月26日、「党の強制を解除し、個々の議員の良心に委ねたい」と発言。その結果、先月30日の連邦議会での採決ではCDUから75議員が同性婚法案に賛成を投じている。
AfDはメルケル首相の軌道修正を歓迎し、「わが党が唯一、保守的世界観を維持している」として、9月24日実施の連邦議会選で伝統的な保守派有権者の支持を期待している、といった具合だ。
同性婚法案については他の政党の中でも「同法案が基本法に反している」という声が高まっている。カール・エルンスト・トーマス・デメジエール内相(CDU)はAfDの連邦憲法裁判所への訴えが受理されることを期待している1人だ(同内相は連邦議会での採決では反対票を投じた)。その理由として、「同性婚法案を施行するためには基本法の改正が必要となるからだ。婚姻は男と女の間の結び付きを前提としている」という。CDU院内総務のフォルカー・カウダー氏も、「連邦議会は十分に煮詰まっていない法案を可決してしまった」と批判している。
独週刊誌シュピーゲルによると、元連邦憲法裁判所長官、ハンス・ユルゲン・パピアー氏は、「同性婚を認めることは憲法違反になる。同性婚を認めるのならば、基本法6条を先ず改正しなければならない」とはっきりと指摘している。
ドイツ基本法6条は「婚姻、家族、非摘出子」について記述している。「婚姻と家族は国家秩序の特別な保護を受ける」と明記し、「母親は共同社会の保護と扶助を求める権利を有している」と述べている。すなわち、男と女の間の婚姻を前提条件としていることが分かる。ドイツ民法1353条では、「婚姻は男と女の一夫一婦制の生活共同体」と定義し、婚姻の権利と義務が記述されている。
そのため、同性婚法案の施行前に基本法の改正がされない限り、法の整合性が崩れるわけだ。もちろん、基本法3条には「全ての人間は法の前で平等だ」と記述されているから、同性愛者の権利も当然含まれている、という解釈も成り立つ。
なお、CDUと連立政権を組んできた社会民主党(SPD)は連邦議会での同性婚法案の可決を「わが党の勝利」と表明し、連邦議会選に向けて、勢いをつけたいところだが、連邦憲法裁判所の判断が下されるまで、同性婚法案が実際施行されるかどうかも不明だ。慌て過ぎて恥をかかないように慎重に対応すべきだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。