職員のまじめさが役に立たない自治体サイトをつくる

自治体サイトを開くと、「文字サイズの変更」「音声読み上げ」といったボタンが付いている場合がある。「文字サイズの変更」を押せばテキストサイズを大きくしたり小さくしたりできる。「音声読み上げ」を動かせばサイトの内容を読み上げてくれる。いずれも障害者の利便を向上するために設けられた機能であるが、ほとんど役に立たない。

どうして役立たないのか記事の後半で説明するので、「どうしてだろう」と考えながら読み進んでほしい。

英語・中国語・韓国語といったボタンもあり、それを押すと自動翻訳が動き出す。ただし、多くの自治体は誤訳の責任を負わない。渋谷区のサイトには次のように書いてある

翻訳文によっては、本来の意味からはずれた結果になることもあります。渋谷区と翻訳プログラムを提供する事業者は、当翻訳に起因する損害について一切の責任を負いません。このことを十分ご理解のうえ、ご利用いただきますようお願いします。

「文字サイズの変更」などは障害者基本計画や総務省『みんなの公共サイト運用ガイドライン』が求める、障害者に対する配慮要求に応えるものだ。多言語への自動翻訳は定住外国人や訪日客のためだ。

行政職員はまじめだからこれらの要請に応えようとする。一方、システムベンダーは自治体サイトのリニューアルに入札する際に、障害者対応・外国人対応が可能と技術をアピールする。その結果が今のサイトである。

しかし「文字サイズの変更」ボタンは無用の長物である。障害を持つ利用者はブラウザでテキストサイズを変更し、検索ウィンドウに大きな文字で自治体名を入力して、自治体サイトにたどり着くからだ。自治体のサーバーで動く自動翻訳は、ネット型の自動翻訳(たとえばGoogle翻訳)に比べて改良が遅れるので誤訳の恐れが高い。

役に立たない無用な長物を調達するために余分な費用を払うのはもったいない。まじめなゆえに、無駄をしてしまう行政職員は気の毒だ。行政職員に対して最新の技術動向を伝える機会を増やす必要がある。システムベンダーも無駄を承知でそんな機能を売り込むのはやめていただきたい。