「都民ファーストの会」の使命

大方の予想通り、東京都議会選(定数127)は小池百合子都知事の政党「都民ファーストの会」が勝利したが、その勝ち方が想定外の大勝だったこともあって、安倍政権にも大きな衝撃を投げかけている。

▲東京都議事堂(東京都議会の公式サイトから)

▲東京都議事堂(東京都議会の公式サイトから)

ウィ―ンから東京都議会選のことを書くつもりも、論評する気もないし、読者もそれを期待していない。ここでは第1党となった「都民ファーストの会」の「ファースト」について考えてみたいのだ。文字通り、「最初、第一」といった意味合いの「ファースト」についてだ。

理解しやすくするために、やはり「都民ファーストの会」を例に挙げてみる。その反対は「知事ファースト」だろうか、それとも都議会を牛耳っている「与党ファースト」だろうか。実際は、腐敗や汚職をする与党政治家への審判を意味するのだろう。

「ファースト」があれば、必ず「ラースト」が思い浮かぶ。大きく言えば、「アンチ・ファースト」だ。だから、「ファースト」を叫ぶ人々はその出自はラースト派、非ファースト組だったことが考えられる。その意味で、「貧富の格差」是正を訴えた「われわれは99%」運動にも心情的には近いはずだ。いずれにしても、「ファースト」に属する支配階級(エスタブリッシュメント)は自分たちが「ファースト」であることを隠すから、声を出して「自分たちはファーストだ」とはいわない。

換言すれば、もともとラースト組の人々が「ファースト」の旗を掲げて、「ファースト」の座にある人々、グループ、政党に戦いを挑むわけだから、一種の社会革命だ。革命だから、その運動に係る人々やその飛び火を浴びる国民は燃えあがる。
ただし、「ファースト」がラーストの対抗概念である限り、「ファースト」はいつかは新たなラースト派、アンチファースト組から追い出される運命を回避できないだろう。だから、「ファースト」が既成政党のように定着することは期待薄だ。いつか党名の変更を求める声が出てくるからだ。

例えば、ある地方の村で「村民ファ―ストの会」が誕生し、村議会に挑戦し、村長や賄賂で腐敗した村の議員たちを追放する。ところで、村の発展のためにはその村が属する市の発展が前提となる、村一村だけの発展は通常考えられない。市の発展にその市が属する県の発展が不可欠だ。そして県の発展のためには最終的にはその県を統治する国家の発展がなければならない。トランプ米大統領はそこまでは考えたはずだ。だから、昨年の大統領選で「米国ファースト」という標語を思いついたのだろう。

米国は確かに地下資源も人材も豊富だ。自力できる経済力、国力を有しているが、その米国でも21世紀の今日、米国一国だけではやっていけない。米国の発展のためには世界の発展が不可欠となるからだ。「米国ファースト」に留まれば、保護主義者といった批判を受けざるを得なくなる。

「ファースト」という表現は魅力的だ。「僕の目標は2位に入ることです」というスポーツ選手は少ないだろう。「優勝です」、「1位になることです」という返答が戻ってきて当然だ。それほど「ファースト」は魅力的な言葉だ。
しかし、先述したように、「ファースト」はそれより大きなファーストの発展を前提としている。さもなければ、ローカルなファーストに留まり、世間知らずのお山の大将になってしまう。

小池知事は「東京都の発展には日本の発展がなければあり得ない」という極めてシンプルな事実を忘れることなく、その職務に取り組んでいただきたい。「都民ファーストの会」が社会革命に酔いすぎて、反政府運動に変身しないようにかじ取りに注意すべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。