都議選惨敗は首相に対する都民版国民投票

都議選惨敗直後、G20ハンブルク・サミットに向かった安倍首相(首相官邸サイト:編集部)

進次郎氏は財務相の経験が不可欠

東京都議選で自民党が惨敗しました。地方選と国政選挙は違うとはいえ、安倍政権の信認に対する東京版の国民投票だったといえましょう。安倍首相の政治的スケジュールがすっかり狂いだしています。小池知事の乱気流を許したのは、「1強政権による慢心」などではなく、強引な政治手法、羅列する政策目標への批判であったと思います。

おごりや慢心、緩みなどが原因なら、首相がいうように「深く反省」すれば、解決できるかもしれません。そうではなく、都民版の国民投票の結果は、5年に及ぶ安倍政治への懐疑や不信の表明でしょうから、問題の根が深く、首相自身がどうしようかと困惑してるに違いありません。

一挙に支持を回復できるとすれば、北朝鮮の暴発、国内の震災や大災害の発生などであり、危機管理の強化に迫られ、政治の安定が最優先で求められる場合です。北の脅威、自然災害に万全の体制で臨むことは必要であっても、メディア、特にNHKの報道が危機、危険を過剰に報道する傾向が強まっている気配を感じます。危機、危険が大きく報道されるほど、政権への依存度が高まるからです。報道機関の意図を勘繰りたくなります。

目先の効果で進次郎氏を起用するな

来月に予想される内閣改造で、早くも人気が高い小泉進次郎氏の閣僚起用がうわさされています。自民党の目先の危機対策には役立っても、小手先の対応をすべきではありません。小泉氏をリーダー候補として育てていきたいなら、もっと経験を積ませてからのことです。人気と政策能力は比例しません。本人は今は断るべきです。

最も求められる政策的経験は、財政、金融、社会保障でしょう。首相の有資格者は財務相の経験者であるべきです。あるいは、厚労相です。財政危機の最大の原因は社会保障費の増大あり、これらの分野で知見を積むべきです。安倍首相の最大の欠点は、政治家にとって必要不可欠な国家財政への理解に欠けることです。財政は政権の自由になるカネだと、錯覚しています。一般家庭においても、一家の主が収入と支出の関係に無頓着だったら、家計は破綻します。国も同じことです。

理解不足の例をあげましょう。「デフレ対策の名目で、日銀が大量の国債を買い込み、これが財政危機の表面化を先送りしているという深刻な事実に目を向けない」、「日銀の財政ファイナンス(国債購入)がとまった途端に、金利が上昇、利払い費が増大し、財政赤字が一気に増えだすことを懸念していない」、「財政政策を通じて経済成長を促進すれば、税収が増え、財政危機対策になるとという手法がは何度も失敗している。その恐ろしさに目をつむっている」、などなど。

知らしむべからず政治か

次に安倍政治に対する国民の懸念は、強引な政治手法です。森友、加計学園問題は、これらの問題そのものより、政権に不都合な局面になると、「記録は破棄され、存在しない」、「記憶にない」、「丁寧に説明するといいながら、実質的に何も説明しない」と逃げ回る態度にあります。それが政治不信を招いているのです。

今後、共謀罪や安保法制で大きな問題が起きても、「この政権は重大なことを隠す態度をとるのではないか」という疑念を深めました。ことわざにある「依らしむべし、知らしむべからず」(民は施政に従わせればよく、道理を分からせる必要はない」に通じるところあります。「公式記録がないのななら、メモ帳などから掘り起こす」ことをすればいいのに、その素振りすら見せないのですからね。捜査機関ならそうしています。

最後に、この政権は選挙受けしそうなスローガン次々に掲げ、行き詰まると看板を掛けかえることの繰り返しです。成長戦略、一億総活躍、国民総生産600兆円、地方創生、働き方改革など、なんと目まぐるしいことでしょうか。官邸のどこかに宣伝マンでもいるのでしょう。成果の検証、再構築の検討という手順を省く宣伝型政治が通じなくなっているのです。

首相は「自衛隊規定と教育無償化」を抱き合わせで憲法改正をすること望んできました。教育無償化は財政的にとても無理で、自民党の憲法改正推進本部は、無償化は「プログラム規定」というあいまいな表現にとどめる方向です。そんなことより、都議選惨敗で憲法改正そのものを先送りをするのかどうか。憲法改正先送りしても、消費税10%は実施するのか。小池氏と組んだ公明党が発言力をますのかどうか。都民版の国民投票の影響は大きいですね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。