北朝鮮は4日、同国北西部・亀城市の方峴付近から日本海に向け弾道ミサイル1発を発射した。北朝鮮メディアはミサイルが大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射だったと発表した。米国側は最初は「中距離ミサイル」と受け取っていたが、ティラーソン国務長官は同日、「北のミサイルがICBMだった」と訂正している。国連安全保障理事会は5日、緊急会合を開き、「より強力な対北制裁の実施」に向けて理事国の意見の調整に入った。
トランプ米政権は先月、北の大量破壊兵器開発に関与した疑いのある中国の丹東銀行などを新たに制裁対象にしたが、国際社会がまだ実施していない対北制裁がある。それが原油供給の停止だ。その中心的役割を担うのはここでも中国だ。北の原油供給のほとんどが中国から提供されているからだ。
なぜ、原油供給停止制裁がこれまで実施されてこなかったのか。原油供給の停止は北の軍事活動に最大級のダメージを与えるが、同時に、国民の日常生活にも大きな影響が出てくるからだ。
ところで、潘基文前国連事務総長は2012年、「全ての人のための持続可能なエネルギー」という新しい国際専門機関を設置した。エネルギーの安全供給がなければ経済活動ばかりか、国民の生活は停止してしまう。人類の歴史はエネルギー源確保のため紛争し、戦争を繰り返してきた。強国は弱小国家を植民地化し、その地下資源を奪っていった。だから、安全なエネルギーの持続的な供給が国民の安全と福祉に不可欠というわけだ。換言すれば、人はエネルギーの安全供給を受ける権利、「人権」があるというのだ。
原油供給がストップされた場合、平壌指導部は備蓄原油を国民のために放出しないから、国民の生活は直ぐに困難に直面し、家庭の電気は止まり、家族と一緒にテレビを見ることも出来なくなる。北の国民の人権は著しく損なわれる。
だから、北の核・ミサイル開発に直接、間接的に支援する個人、企業、団体への制裁は実施できるが、「人権」にかかわる原油供給の停止制裁はこれまで排除されてきたわけだ。
しかし、北朝鮮のような独裁国家に対し、いつまでも躊躇できなくなってきた。国民は人質にとられている。元国連拷問特別報告者であり、人権問題の国際的権威、ウィーン大学法学部のマンフレッド・ノバク教授は、「世界の平和が脅かされた時、制裁を実施するのは国連安保理の課題だ。もちろん、人権蹂躙よりも、大量破壊兵器や核兵器によって世界の平和はより脅かされる。自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意思のない国家に対し、国際社会が当該国家の保護を受けるはずの人々について『保護する責任』(Responsibility to Protect)がある。北朝鮮の現状に該当する内容だ」という。
具体的には、国連憲章42条に基づく軍事的対応だ。この国際社会の『保護する責任』は2005年の国連総会で全会一致で採択されている」(「元国連拷問問題特別報告者に聞く」2016年3月2日参考)。
対北原油供給停止制裁は独裁国家・北朝鮮に対する国連憲章42条に基づく軍事的対応ともいえる。もう少しセンセーショナルに表現すれば、金正恩労働党委員長への国際社会の「戦争宣言」だ。同時に、対北原油供給停止制裁は困窮下にある北国民をさらに苦しめることになる決断だ。国際社会はこれまでにない厳しい選択を強いられている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。