【映画評】ボンジュール、アン!

Paris Can Wait

映画プロデューサーとして成功している夫マイケルは、長年連れ添ってきた妻アンに無頓着で、仕事ばかり。いつも寂しい思いをしているアンは、ひょんなことから夫の仕事仲間でフランス人男性ジャックの車に同乗し、カンヌからパリへと向かうことになる。単なる移動のはずが、ジャックは、おいしい食事や、美しい風景などを楽しもうと、半ば強引にアンを連れまわす。最初は困惑していたアンだったが、次第にそのまわり道は彼女の人生を変える、充実したひと時になっていった…。

長年夫を支え、子育ても一段落した女性が、人生の岐路に立ち、パリへの旅を通して自分自身を見つめ直していくヒューマン・ドラマ「ボンジュール、アン!」。監督は、巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の妻、ソフィア・コッポラ監督の母の、エレノア・コッポラで、80歳にして長編劇映画監督デビューとなった。デビューといっても監督としては秀作ドキュメンタリー「ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録」などを手掛けている実力派である。本作は、何でもエレノア自身の体験に基づいた物語ということで、ヒロインにはエレノア自身が投影されているそうだ。

仕事人間の夫は妻に無頓着、娘も学校を卒業した今「これから私、どうするの?」と自問していたところに、人生を楽しむ達人のフランス男が目の前に現れる。カンヌからパリへのドライブで見る景色は、美しいラベンダー畑など陽光あふれる風景で、食べ物は、料理も食材もワインもおいしそう。映画を発明したリュミエールの研究所や、世界遺産のサント・マドレーヌ大聖堂を訪ねたりと、名所めぐりのロケーションも第一級だ。

そんな旅映画、グルメ映画の裏側にあるのは、ちょっぴりやきもきする大人同士の恋物語。互いに分別もあり、人生の悲しみも知っている二人は、少しずつ距離を縮めていく。そのゆったりとした落ち着きや大人の雰囲気が心地よい。アンはジャックに比べて臆病かもしれないが、アンに積極的にアプローチし人生を楽しむジャックのことは嫌いじゃないのだ。はたして目的地パリに着いたアンが出す答えとは?それは映画を見てのお楽しみだ。ダイアン・レインのナチュラルなたたずまいに好感が持てる。
【60点】
(原題「PARIS CAN WAIT」)
(アメリカ/エレノア・コッポラ監督/ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン、他)
(人生讃歌度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。