前川元事務次官が通い詰めていた風俗店は、暴力団の資金源になっており、新宿署が売春防止法違反で内偵していた。そのアンテナに引っかかった目立つ常連客が、なんと現役の事務次官だったということで、警察庁のトップにまで報告がいった。
私は自分のブログにこう書いた(以下、網掛けは引用部分)。
(前略)「出会い系バー」なるものは事実上の売春・援助交際施設だ。
店側としては、店内で売春をさせたら何かと設備が大掛かりになり、自分たちも責任を被るリスクがあるので、外で個人間取引を装ってやらせているわけだ。
その取引に際して、しっかりマージンを取っている(つまり女性が売春収入の何割かを店に戻す仕組み)ので、事実上の管理営業売春である。
補完すると、“出会い”も何も、こういった店には、はじめから店側の息のかかった女性が多数在籍している。行き先のホテルも暴力団の系列だ。
もちろん、売春した事実を認めたら、女性も客も逮捕されるので、絶対に口は割らない。
補完すると、そういった“自主性”だけでなく、店側の陰陽の圧力もある。売春の事実を漏らしたら、どんな報復が待ち受けているか分かったものではない、というわけだ。
だから、女性は「客から金を貰った」とは絶対に言わないし、恐ろしくて言えない。ゆえに売春は個人間の秘密に留められ、めったなことで外に漏れることはない。
法の網をかいくぐる、実に巧妙な仕組みである。そして、外観こそ変えているが、明らかに古典的な女性搾取の要素も見て取れる。
そんな事実上の違法風俗店に、日本の教育システムの頂点に立つ事務次官が頻繁に通いつめ、何十回もその「連れ出し」行為を行っていた・・。
これが「個人の自由」ですまされるのだろうか。
「プレイベートだから何をしようが自由」なのだろうか。
仮に、銀座のクラブやキャバクラだったら、私もその範疇と見なしたかもしれない。なぜなら、それらは売春目的の店ではないからだ。
今回の事案は明らかに「キャバクラでハメを外した」のとは次元を異にすると思うが。
二重の間違いを犯した前川元事務次官
一つは、このような店に公教育を担う政府高官が通いつめていたこと。
もう一つは、それがバレた後に、嘘をついてごまかした(疑いのある)ことだ。
前川氏が「貧困調査のため」などと嘘をついた可能性があることも、教育者としての資質に関わってくる。私は「欧米ガー」とあまり言いたくないクチだが、あちらの国だったら、これで彼は二重に糾弾されることになっただろう。
最近「反安倍」の編集方針を鮮明にし始めた週刊文春は、前川氏を「恩人」とする女性の証言を載せた。ところが、そのもっとも前川氏を擁護する記事でさえ、前川氏の主目的が“貧困調査”であることを証明するには至らない。
そういう側面が皆無だったと、全否定するつもりはない。重要なポイントは、果たしてそれがメインの動機だったのか、サブだったのか、ということ。
おそらく、前川氏がやっていたのは、根本的には「若い女性との戯れ」であり、そのフレーム内において、時には貧困問題に対する職業的関心が頭をもたげ、足長おじさん的慈善精神まで発揮していた、ということではないのだろうか。
「足長おじさんシンドローム」というのか、初老の男性が自分の娘くらいの女性を相手にやや過ぎた善意を発揮するという“娯楽”は、たしかに理解できなくもない。
ブロガーの木走正水氏は、「なぜ貧困男子はなぜ調査しないのか?」と疑問を投げかけた上で、これは『究極のプラトニックスケベ道』であると論考している。
また、和田政宗議員は「貧困調査と述べているが、実際にこうした出会い系バーに出入りする女性の貧困について対策を取るようにとか、研究しろ等の指示はあったのか」と文科省に問うたところ、「全くない」との答弁を得ている。
そもそも貧困調査のために暴力団経営のいかがわしい店に通いつめ、しかも特定の女性を数十回も連れ出す行為は、“調査手法”としてどうだろうか。
やはり、木走正水氏が言うように、金持ち紳士の遊びに思えてならない。
前川氏は家族にまでそう説明していたらしい。発覚を恐れてコソコソするよりも、さも職務であるかのような予防線を事前に張っておく手法は、既婚男性諸氏には参考になるかもしれない。この辺は官僚的答弁の才能がいかんなく発揮されたのだろうか。
だが、そういう“調査”に勤しんでいた前川氏に対して、正規教員と同じ仕事をしながら6割の収入に留められている全国4万人の臨時教員たちが何と思っているか。
「私たちの被差別的で不安定な雇用問題を放置してきた張本人じゃないか」
こんなふうに前川氏を偽善者であると見なして憤っている人も少なくないはず。
前川氏と文科省を見て「真面目にやるのが馬鹿らしい」と思う教師たち
まあ、プライベートとはいえ、善行は一応善行だろう。それで助かった人がいるなら、それは結構なことだ。しかし、そういう特定個人に対する慈善行為も、彼がこれから引き起こすことになる大きな社会悪に比べたらものの数ではないような気がする。
今回、社会全体にとって不幸だったのは、前川氏が日本全国の教育者を総監督する立場にあったことだ。むろん、名目上のトップは文部科学大臣だが、数年で入れ替わるただの「ゲスト」だから、実質トップはやはり事務次官である。
だから、本来なら、これは日本の公教育史上、前代未聞のスキャンダルのはず。
ところが、そういう人物をメディアや知識人・有名人がこぞって持ち上げた。彼らは、むしろ前川氏が人格者であり、逆に批判側のほうがおかしいのだと論陣を張った。
どうやら、彼ら的には、自分の子供が将来そういう店で性を売ってもいい、暴力団が実質経営する管理売春のシステムに取り込まれて搾取されても構わない、ということなのだろう。なにしろその種の店を利用するのは「人の勝手・自由」なのだから。
日本の教育システムの総責任者がコレで、テレビなどのメディアとその常連さんたちがコレだ。社会的影響力が弱かろうはずがない。とくに教育現場には。
おそらく、規律を遵守することが馬鹿らしくなる教師が続出するのではないか。
「われわれを監督している責任者が、暴力団経営の風俗店に通い詰めて買春していた。それが発覚すると、貧困調査などと嘘をついて言い逃れた。知識人や有名人たちも『何ら問題じゃない、個人の自由だ、何に金を使おうが人の勝手だ、批判するほうがおかしい』と一斉に擁護し、あまつさえ人格者扱いまでする。文科省のお偉方たちもペナルティを課すどころか、退職金を8千万円も与えた。彼らは現場を厳しく指導し、超過労働の実態も改めないくせに、自分たちだけはしっかり天下り利権も確保している」
以上の内容が厳密に「事実」かどうかはともかく、重要なのは、教師たちの「主観」ではこんなふうに映り、不満に思ったとしても仕方がない、ということ。
前川氏とその応援団が教育現場へ与える負の影響
果たして、これで教育現場は良くなるだろうか、それとも悪くなるだろうか。
私は教師の性犯罪が増えたとしても驚かない。
なにしろ、教育者としてやってはいけないことでも、見つからなければいいのだ。仮にバレても、「何々調査のため」と嘘をついて、ごまかせばいいのだ。
「女生徒を盗撮したくらいで何で罰せられなきゃならん? おれたちを監督している責任者たちはもっと悪いことをしているじゃないか。やつらは捕まるどころか、億近い退職金まで貰って、あちこちの関連組織に天下りして、おいしい思いをしているじゃないか。なんで現場のおれたちだけ馬鹿正直に規律を守らにゃならんのか!」
私が教師だったら、そういう発想をして開き直るかもしれない。
そして、子供たちは、上のような大人社会を見て育つ。
テレビに映る偉い人たちが、何も問題じゃない、個人の自由なんだと言っている。
「ということは、そういうことしてもいいんだ。ああいう店に出入りしたり、性を売ったりしてもいいんだ。仮に問題になっても、嘘をついてごまかせばいいんだ」
子供たちがそう考えたとしても不思議ではない。だいたい、大人が守らないことを、子供たちが守るわけがない。
以上は、いわば教育界のモラルハザードだ。前川氏の「置き土産」である。
自分のブログですでに断ったことだが、私は全然道徳家ではないし、モラルを掲げて人を裁く行為は大嫌いだが、今回の件は常識的に考えてもアブノーマルなので、とりたてて人格者でなくとも批判できると思っている。ただし、普段からその行為が三度のメシよりも好きな人たちが反対に彼を持ち上げるので、いささか自信を失ってはいるが・・。
いずれにせよ、その彼ら、とりわけテレビに出ている有名人たちは、前川氏の「置き土産」の責任を分有することになる。もっと言えば、彼らは、日本の子供たちを、暴力団と彼らがやる売春ビジネスに売り渡した、という見方も考えられる。
まさかその中に、普段から「子供たちの未来のためにィー」と叫んでいる人はいないでしょうな?
(*この記事には続編があります。こちら)
(フリーランスライター・山田高明 個人サイト「フリー座」)