潮目が変わって来た日本の半導体

竹内 健

久しぶりの更新になります。ブログを更新していないので、最近どうしたのか?、と聞かれることが時々ありますが、元気にやってます。

いまAI向けLSIというフロンティアが開けつつあり、必死でAIという新しい分野を勉強しています。何才になっても、新しいことをやるのは楽しいですね。

世界の中で市場シェアを落とし続ける日本の半導体。1990年頃に50%もあった市場シェアが、今では10%ちょっと。

韓国・台湾と言ったアジア勢の市場シェアが増加している一方、アメリカやヨーロッパのシェアは横ばいですので、日本が一人負けしているわけです。

最先端半導体では日本の最後の砦ともいえる、東芝のフラッシュメモリ事業が東芝メモリとして分社化され、売却されようとしています。

落ちるばかりで良い事なんて何にもない・・・と思える日本の半導体ですが、潮目がひょっとしたら変わってきたのではないか、と感じています。

6月に京都で開催された、半導体のプレミア学会、VLSIシンポジウムの参加者が過去最高を記録しました。

私自身はプログラム委員として、特定のテーマに関して専門家達を招いて丸一日、講演・議論して頂くショートコースの企画を担当しました。

今回のショートコースでは、機械学習向けLSI(いわゆるAIアクセラレータ)と自動運転などのConnected Carという2つの企画を行い、過去最高の参加者数でした。

参加者はなんと倍増で、当日は座席が足りるか心配になるほどでした。

参加費が数万円以上と決して安くない学会への参加者数がこれだけ増えたという事は、日本でも半導体への関心が戻ってきているのではないか。

また、学会では自動車関連メーカーやITベンダに転職した、旧知の元半導体技術者に会いました。

日本の半導体の関心が戻りつつあると言っても、以前のような半導体ではなく、日本が得意とする自動車やロボット・医療機器などIoT端末に使われる半導体、ということでしょうか。

つまり、半導体メーカーのエンジニアが半導体のユーザー企業・サービス企業に移り、システム側から半導体への関心が高まっているのではないか。

こういった半導体を巡る業界の変化は、日本だけではないでしょう。

最近話題の東芝メモリの買収に名乗りを上げる企業からもわかります。東芝メモリの買収を提案しているとされる、グーグル、アップル、アマゾンなど半導体のユーザーだった企業が、半導体を手掛けるようになっている。

学会の参加者が増えたのは、AIや自動運転車という象徴的なテーマがあることが大きいでしょうが、よりシステム側・サービスに近い企業が半導体に進出することで、再び日本でも半導体が注目される時代が来るのかもしれません。

AIでもソフト(アルゴリズム)・ハードの融合、全体最適化が重要ですが、最終的にビジネスで参入障壁を築いて利益を手に入れるのは、LSIのようなハードを持っている企業なのかもしれません。

だからグーグルやアマゾンもLSIの開発を手掛ける。

金融情報サービスを手掛けるブルームバーグが、なんだかんだ言っても端末というハードで顧客を囲い込み、儲けていることと似ているのかもしれません。


編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2017年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。