チェスター・ベニントンの早すぎる「死」

米ロックバンド「リンキン・パーク」のボーカリスト、チェスター・ベニントンさん(41)の突然の死のニュースは世界の音楽界を驚かせた。ベニントンさんは20日、ロサンゼルスの自宅で首をつって死亡していた。

41歳で亡くなったベニントンさん(ウィキぺディアから)

ベニントンさんの死因についてさまざまな情報が流れているが、最近は鬱に陥っていたという。友人の人気歌手クリス・コーネルさんが5月に急死したことにベニントンさんは大きなショックを受けていたからだ。また、ベニントンさんは少年時代、両親の知人から性的虐待を受け続け、その後、麻薬と飲酒に陥ったと述べていた。

ミュージシャンと麻薬の関係はこれまで何度も指摘されてきた。華かな舞台の裏で麻薬と酒に溺れる若き音楽家たちが後を絶たない。このコラム欄でも書いたが、音楽界では「クラブ27」と呼ばれる話が伝わっている。世界の若いミュージシャンが不思議と27歳で死去することから、27歳は彼らの厄年といわれ、「クラブ27」といわれてきた(「クラブ『27』の呪い」2011年8月2日参考)。

英国のソウル歌手エイミー・ワインハウスさん(27)が2011年7月23日、ロンドンの自宅で亡くなった。2008年にはグラミー賞で5冠を獲得、スーパースターの座を得て、若者たちの間で人気があったが、薬物中毒とアルコール中毒に悩み、公演をキャンセルするなど、その言動は不安定さを増していた。公式の死因は明らかにされていないが、麻薬中毒死の可能性が濃厚だ。

クラブ「27」のミュージシャンたちを挙げるとすれば、英ロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズの元ギタリスト、ブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)だ。彼は1969年7月3日、プールで溺れ死んでいたところを発見された。米ミュージシャンのジミ・ヘンドリックス(Jimi・Hendrix)は70年9月18日、ロンドンのホテルで麻薬中毒死。米ロックシンガー、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)は70年10月4日、麻薬とアルコールで死んでいる。また、米ロックバンド、ドアーズのボーカリスト、ジム・モリソン(Jim Morrison)は71年7月3日、パリで心臓発作で亡くなったが、死因については最後まで不明な点が残った。彼らは死亡した時、いずれも「27」歳だった。同時に、麻薬がその早すぎる死と密接な関係があった。

ベニントンさんは「クラブ27」ではないが、同じように早すぎた死だ。若い時から麻薬と酒に溺れてきた。ストレスが大きく、舞台の表と裏の違いに悩む若い音楽家は少なくない。その舞台裏でマリファナやハシシを麻薬という意識はなく、日常摂取されているという。ここに危険が潜んでいる。

例えば、大麻の消費は脳神経に多大の影響を与えることは学問的にも証明されている。ウィーンに事務所を構える国際麻薬統制委員会(INCB)は「大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)が含まれている。例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)だ」と指摘している。

麻薬をハードとソフトに分類し、ソフト麻薬は消費しても健康に影響がない、といった風潮があるが、INCBは「麻薬にはソフトもハードもない。両者とも心身に危険性がある。大麻の乱用は認識困難や精神的錯乱という症状をきたす」という研究報告を紹介している。

ソフトドラックでも長期間摂取していると必ず影響が出てくる。その危険性について、メディアも繰り返し警告を発すべきだ。麻薬をかっこいいモードのように扱ってはならない。若きミュージシャンが麻薬の犠牲となったというニュースを聞く度に、彼らを英雄扱いし、もてはやすメディアの責任を感じる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。