読売新聞電子版をみていると、「月光仮面」の主題歌を作曲した小川寛興さんが7月19日、92歳で死去されたというニュースが目に入った。正直言って、当方は「月光仮面」の主題歌の作曲者名を知らなかったが、「月光仮面は誰でしょう」という歌詞(川内康範作)だけは今でも鮮明に覚えている。
テレビがまだ十分に普及していなかった時代、当方はテレビがある友達の家に見に行った。「ララミー牧場」を見たいため、既に暗くなった畑道を速足で友達の家まで行ったものだ。「月光仮面」も当方が当時、大好きなテレビ番組だった。
「月光仮面」の主題歌が好きだった。子供心とマッチするので、覚えが悪かった当方も直ぐに覚えてしまった。スポーツカーに乗って登場する時代ではなかった。「月光仮面」のおじさんはバイクに乗って現れる。その「月光仮面」は悪者をやっつけてくれる正義の味方だった。正義はいつも勝つと信じていた良き時代の思い出だ。
大きくなっても悪者をやつけてくれる正義の味方はいると信じていたが、常に勝てないことも分かってきた。しかし、最後には正義が勝利するといった信念は変わらなかった。大人の仲間入りをした後も「月光仮面」のおじさんはいないかもしれないが、「月光仮面」のような存在がこの世界のどこかにいるはずだと思ってきた。
そんな時、キリスト教の神に出会ったのは当然の流れだったかもしれない。ただし、その神すら全戦全勝の存在ではないということも知った。神は「月光仮面」のような存在ではない、といった失望感も覚えた。悪に勝利できない善に意味があるのだろうか、と考えてしまった。それでも、神を捨てることができなかったのは、やはり何らかの「月光仮面」のような存在が必要だったからだろう。
同時に、「月光仮面」を密かに待っている人々が案外多いことも知った。人はスーパーマン、ウルトラマン、そして、アンパンマンをも生み出していったという事実は、多くの人が月光仮面を待っている証拠だ。
「正義は必ず勝つ」と初老を迎えた男が言えば、「変わった人間」と思われるかもしれないが、変わった人間は決して少数派ではないわけだ。事情があって、「正義は勝つ」と叫ぶことができないだけだ。
「月光仮面」はどこの誰かは知らないけれど、誰もがみんな知っている。イエスは33歳の若さで十字架上で亡くなった。彼は愛の人だったが、「月光仮面」ではなかった。そのイエスはやり残した仕事(正義は必ず勝つ)を実現するために再び来ると約束して去っていった。彼が再び来る時、本当に「誰もがみんな(彼を)知っている」だろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。