もし、北朝鮮のミサイルが日本漁船に当たったら?

中村 祐輔

ますます脅威になる北朝鮮のミサイル(北極星2の打ち上げ時を北朝鮮政府公式サイトより:編集部)

北朝鮮の挑発は止まらない。予想通りというか、予想を超えてと言うべきか、深夜に発射されて日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。大陸間弾道弾であることは確実で、距離的にはシカゴには届くレベルだろうと報道されている。EEZ内に落下したのは初めてではないし、このEEZ水域内では日本漁船が操業している可能性が高いはずだ。

もし、日本漁船を直撃ないし、近くに落下して人命被害が出た場合、日本としてどのような対応をするのか、準備はできているのだろうか?今回は、防衛大臣が辞任した直後という、空白時間帯とも言うべき状況であったし(外務大臣が併任していたが)、心もとない。

「毅然とした態度で臨みたい」に対して「遺憾である」という言葉を引き出して終わるだけでは済まないだろう。人命被害が出れば、宣戦布告されたに等しい状況だ。それとも多くのメディアは、何があっても、平和的解決を主張し続けるのだろうか。自社の社員・家族が、暴力団に襲われて重傷を負っても、「ごめんなさい」と言われれば、警察や検察が介入せず、それで済ましていいと多くの日本人は考えているのだろうか?

年々どころが、日々、北朝鮮の軍事力は増強されつつある。これで核弾頭が準備され、脅かされれば、「そればかりは、ご勘弁を」と言いなりになるのであろうか。米国の軍事力を頼りにしてきた日本だが、その米国のホワイトハウスが大きく揺れ動いているのだ。政権内の暗闘で、主席報道官が去り、首席補佐官が去り、司法長官が明日どうなるのかわからない状況だ。新しく任命されたコミュニケーション責任者は、就任直後に、下品な言葉でホワイトハウス内の人を罵倒して顰蹙を買っており、このままその座にいるのかも怪しくなってきた。日本であれば、メディアの一斉攻撃を受けるような品のない言葉の連発で、辞任は必至だろう。

そして、トランプ大統領の掲げていたオバマケア法案の廃案はドラマチックに否決された。上院で審議入りもできない状況に、颯爽と現れ、審議入りを後押ししたのが、最近脳腫瘍と診断されたマケイン上院議員だ。審議入りが難しいと予測されていたが、彼の参加によって50対50の同票となったため、ペンス副大統領投票に参加、そして賛成票を投じて可決となった。マケイン議員がいなければ、49対50で否決されていたのだから、もちろん、トランプ大統領はマケイン議員を賞賛した。私は、軍人として英雄視されているマケイン議員を「捕虜だった人が偉いのか」と言って、大統領候補だったトランプ氏が批判したことが印象に残っていたので、アメリカの民主主義は素晴らしいと思った。

しかし、もっと大きなドラマは、この後に起こったのだ。審議によって、大幅な修正をし、とにかくオバマケア法案を廃止したとのだという、トランプ大統領の実績を残そうとしたのだが、最終的にマケイン議員が反対に回ったため、49対51で否決された。こうなるとペンス副大統領の出る幕はない。「江戸の敵は長崎で」と言った感がある。

長年「戦争の英雄」と尊敬を受けていた自分の一生の誇りをズタズタに傷つけたトランプ氏への怒りをこの1票にぶつけたのかもしれない(これは、私の想像であり、本当は熟慮の上の公正な反対票だったのだろう)。自分が積み上げてきたものを根底から覆されるような理不尽な言動に対して、私は寛容さを持ち合わせないので、私の目にはそのように映ったのだ。私は、死ぬまで、絶対に朝日新聞社からの取材を受けない。

話を戻すと、米国の核の傘が揺らいだ状況で、日本の西北には3つの核保有国が存在している実態がある。非武装中立国などという幻想が通用しないのは、世界史を見れば明白だ。与党も野党も、政局遊びをいい加減にして、直面している脅威に対して、まともな議論をして欲しいものだ。民進党の新党首になる人には、是非、北朝鮮の脅威に対して、どのように対処するのかはっきりとした考えを示してほしいものだ。みかじめ料を払って相手の言いなりになるようなみじめな国にしないことを心底から願っている。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。