北朝鮮Xデー、1つのシミュレーション --- 佐藤 鴻全

arif_shamim:flickr(編集部)

北朝鮮Xデー、1つのシミュレーション 韓国中立宣言、米艦隊太平洋大返し、米北開戦

米国と北朝鮮間の緊張が高まる中、米北開戦が避けられないと仮定した場合、そのプロセスについて筆者は下記のように想定してみた。

  • 金正恩、トランプともに国内外に弱みを見せられぬ状況のため、亡命or核放棄or核容認の可能性は低く、また習近平、プーチンとも仲介の意思ほぼ無く、米北開戦に向かっている。
  • 文在寅・トランプ会談に於いて対北圧力行使で一致したが、その直後から文在寅は対北融和政策に更に踏み込んでいる。しかしトランプは強く非難しておらず、織り込み済みのようにも映る。
  • もし韓国が中立宣言をすれば、ソウルが火の海になる確率と程度が下がり、逆にトランプは引き金を引き易くなる。一方、専ら日本に報復が向けられる確率は高まるだろう。

1つのシミュレーション

これを、時系列的に並べると下記のようになろうか。

・X年●月●日 北朝鮮、核実験実行。ICBM搭載可能な核小型化成功を宣言

・これを受けトランプ、日本海にて米韓艦隊軍事演習、日米艦隊軍事演習を実施

・トランプ、在韓米国民間人・軍人家族に避難勧告

・文在寅、韓国の対北朝鮮中立を宣言

・トランプ、文在寅に対し激怒。同時に国際世論・米国内世論を観測

・膠着状態の後、米空母打撃群の1つがローテーションに伴い日本海離脱

・米メディア・世論、トランプを「弱腰」「口だけ」「負け犬」と批判。トランプ、秘密裏に米空母打撃群の日本海へのUターンを指示(太平洋大返し)

・米艦隊、日本海に突如出没。戦闘配置完了

・X年X月X日 トマホークミサイル等で、北朝鮮側弾道ミサイル基地・停戦ライン沿いのロケット砲・長距離砲を撃破。グアムより飛来したB1戦略爆撃機がバンカーバスター等で平壌中枢部、各地下秘密基地等を爆撃

・打ち漏らした北朝鮮のロケット砲・長距離砲からの発射によって、ソウル市内に被害発生

・北朝鮮、日韓の米軍基地および日本の3大都市の1つに向け弾道ミサイル発射

・SM3、PAC3ミサイルによって、迎撃成功(あるいは失敗)

・北朝鮮軍壊滅。中国人民解放軍、鴨緑江を渡り北朝鮮侵入。金正恩を捜索し死亡確認(若しくは捕縛)。全土制圧。

・トランプ、習近平、プーチンが首脳会談。北朝鮮の統治について駆け引き

・米中露で合意した統治案を、国連安保理にて可決

常在戦場の時

現在進行形の北朝鮮危機について、北朝鮮のICBM廃棄を前提とした米国による限定的核容認オプションは、2人の指導者の対立が高まる中、日々その確率は逓減していると思われる。

もとより筆者は、北朝鮮に核が残る事は極東の安定性の面で日本として容認すべきではなく、金正恩のロシア亡命での決着について、それに対するプーチンの意欲は現時点で全く見えぬものの、なお日本は表から裏から各方面へ働き掛ける事を諦めてはならないと考える。

ところで私事だが、筆者は数年前より日本古代史への興味から、勤め人ゆえ休日を利用して紀伊、畿内、出雲と幾つか由縁の地を巡っており、今年のお盆休みは、三韓征伐の痕跡、白村江等を訪ねるために大阪発若しくは博多港発のフェリーで朝鮮半島へ渡ろうと考えていたのだが、丁度8月下旬に予定されている定例の米韓合同軍事演習と前後するため、今回は九州止まりにしておくべきかと躊躇している。

もし前述のシミュレーション通り「韓国中立宣言」があるなら、ソウル以下韓国各地が火の海になる確率は下がるとも言えるのだが。

それはともかく、シミュレーションは、開戦に至るとする場合の数多ある可能性の内の1つにしか過ぎない。しかし、こうして何らかを紙に落して眺める事は実感が湧き易く、備えや対策その他の面で有用と思われる。

もし前述の通り、「韓国中立宣言」の後に米北が戦火を開いた場合、やはり日本が報復攻撃を受ける確率はより高まるだろう。防衛当局に於ける防空迎撃態勢の一層の練度向上とともに、現在一部自治体だけで行われている避難訓練は早急に全国で行う必要がある。

なお筆者は、自宅にペットボトル水とパックライス等を多量に用意し、防災ラジオ等を購入し、(直撃を逃れた場合に)死の灰を避けるための避難または籠城の仕方をイメージトレーニングしている。

笑い事ではない。各家庭単位、個人に於いても、ここ暫くは常在戦場の心構えが必要だろう。

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佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
ブログ「佐藤総研」