『サザンオールスターズ 1978-1985』が傑作すぎる

常見 陽平
サザンオールスターズ 1978-1985 (新潮新書)
スージー 鈴木
新潮社
2017-07-13


新潮社の編集者をひっぱたきたい。こんなに面白い本を1,000円以下で出すのは罪である。「文春、文春」と連呼しつつ、ヒクソン・グレイシーのようにマウントポジションで拳を振り下ろしたい気分である。

スージー鈴木による『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮社)が、傑作すぎる。今では「国民的ロックバンド」と呼ばれるサザンオールスターズのデビューから、1985年の活動休止までの足取りを追ったものである。著者のサザン愛は、パねえ。圧倒的な情報量と、具体的すぎる説明、独自の解釈に、小生興奮。デビュー曲にして、代表曲のひとつ「勝手にシンドバッド」風に言うならば「胸騒ぎの腰つき」である。

サザンは「国民的ロックバンド」であるがゆえに、「誰でも知っている」はずなのだが、具体的なことを網羅的に知っているのは、40代後半以上の年齢の、コアなファンだけだと思う。そう、「国民的」と呼ばれる存在というのは、「誰でも知っている」がゆえに、意外に知られていないという矛盾を孕んでしまう。

この本が秀逸なのは、サザンが「MEGAサザン」になる前の、模索が検証されている点である。特に興味深かった事実は、「勝手にシンドバッド」や「いとしのエリー」のあと、趣味に走りすぎて低迷した時期があったということ。その後、「やっぱり、売れよう」と意思決定し、その通りに売れてしまった話などは興味深い。伝説の紅白歌合戦での三波春夫事件などについても、詳しく言及しているのが嬉しい。

音楽評論としてたまらないのだが、キャリア論としても興味深い。青学の学生たちが作ったバンドがいかに国民的ロックバンドになっていったのか。その模索、試行錯誤は読み応えがある。

NUDE MAN(リマスタリング盤)
サザンオールスターズ
ビクターエンタテインメント
2008-12-03


初期の大好きなこのアルバムの舞台裏もたまらなかった。「チャコの海岸物語」の裏話も。そう、サザンといえば湘南と言いつつ、露骨に湘南の地名が出てくるのは例えば、これなのだよね。

「もう終わっちゃうのか」と思うくらいの、圧倒的面白さであった。

あっぱれ!

52

・・・私もいつか、新潮新書を書くんだ、書くんだ。


私の最新作もよろしくね。スージー鈴木さんの本と同様、3刷まではいったのだが。もっと売れると信じてる。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年8月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。