正直いって、これはマズい、と感じた。「何を」かというと、トランプ米大統領が北朝鮮の軍事威嚇に対し、「米国をこれ以上脅かすと、世界がこれまで見たことがないような炎と怒りに直面するだろう」と発言したことだ。
トランプ氏の発言は北が8日、「中距離弾道ミサイル4発を米軍基地のあるグアム島周辺へ同時に撃ち込む作戦を検討中」と発表したことを受けて飛び出したものだ。
上記のトランプ氏の発言は、その言い回しやトーンは北朝鮮の金正恩労働党委員長、ないしは朝鮮中央通信(KCNA)のそれに非常に酷似している。慌て者が上記の発言を読んで、金正恩氏が米国を脅迫した、と捉えたかもしれない。それほど、両者のトーンや表現は似ているのだ。
ニュージャージーの避暑地から発信されたトランプ氏の発言内容は、国連安保理決議を無視して核実験やミサイル発射を繰り返す金正恩氏への軍事的脅迫だが、その表現内容は世界最強国の最高指導者の発言としては少々、子供じみている。「これ以上いうことを聞かなければお前をやっつけてやる」といった腕白坊主の台詞を思い出すほどだ。
北は過去、「ソウルを火の海にする」など主権国家の発言とは思えないような罵声を駆使するが、トランプ氏は同じレベルで「うるさいことぶつぶつ言えば、痛い目にあわすぞ」と返答しているわけだ。北側に品性のない表現を慎むように諭しても効果は期待できないが、トランプ氏は止めるべきだ。
国家やその指導者の品性、品格が問題だけではない。実際、危険だからだ。子供の喧嘩でも殴り合いに入る前には必ず言葉でのやり取りが始まり、それがエスカレートして殴り合いに入るものだ。
「国同士の喧嘩は子供の喧嘩とは違うよ」、「脅迫に品性もクソもあったものではない」と冷笑されるかもしれないが、上記のトランプ氏の発言はどう考えても世界の指導国家、米国の大統領の口から飛び出すべきものではない。
米国際政治学者のジョセフ・ナイ氏は、「トランプ氏の脅迫は平壌ではなく、北京の指導部に向けたものだ」と指摘している。そうだとすれば、大国意識が高まっている北京指導部はトランプ氏の品のない脅迫発言に激怒するだろう。
いい言葉や相手を考えた優しい言葉は聞く者の心を癒す。逆に、悪意の言葉は相手を殺し、激怒を誘発させる。言葉は武器だ。その使用次第で相手を助け、相手を殺す。
政治家の言葉は軽くなったと揶揄されるが、喧嘩相手に向かって発する言葉は軽いものであったとしても、重い結果をもたらすことがある。
問題は深刻だ。トランプ氏が軍事脅迫を示唆するだけで、何も実施せずに終わった場合、トランプ大統領の発言は今後、誰からも信頼されなくなる危険性が出てくるのだ。オーストリア日刊紙プレッセ(10日付)は「トランプ氏のゴルフ・クラブからの脅迫」と少々皮肉を込めて書いている。
トランプ氏は避暑地から発信した脅迫発言をどのようにソフトランディングさせるか、大統領の夏季休暇の宿題となってしまった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。