10日の日経新聞の大機小機に次のような記述があった。
「アベノミクスの4年半を振り返ると、景気回復と脱デフレという面では相当の成果を上げたと評価できる。非伝統的な金融政策が威力を発揮したといえる。」
2013年4月に安倍政権の意向を汲んで決定されたのが、日銀による大胆な緩和策、量的・質的緩和策である。これは異次元緩和とも称され、出口政策のことなどはおかまいなく、大胆に国債を大量に買い入れて、マネタリーベースを増加させて、物価目標を2年程度で達成しようとしたものである。
中央銀行の金融政策は、あくまで金融市場を通じて経済や物価に働きかけるものである。その甲斐あってか長期金利は低位のまま推移し、マイナス金利政策により一時マイナス圏にまで低下した。外為市場にも働きかけた格好となり、ドル円は急減に上昇し、これが株高を誘発した。
しかし長期金利は抑えられても、外為市場での円安に対する働きかけは一時的なものとなった。財務省が管轄の為替介入も実施されず、日銀の大胆な緩和策により、欧州不安の後退のタイミングで、大きな円買いポジションがひっくり返されての投機ポジションを含む、一時的な円安にすぎなかった。
それでも雇用は大きく改善している。物価も一時のマイナスからプラスを回復している。景気についても低空飛行ながら改善している。それは果たして日銀の異次元緩和による効果と言えるのだろうか。
原因と結果を結びつけるには、その間にある経路についてもしっかりした説明が必要になろう。アベノミクスの大きな柱となっていた日銀の異次元緩和は、どのようにして雇用の回復に影響したのか。大きな金融経済危機の後退含めた海外要因、さらには2020年のオリンピックを睨んだ国内要因など、日銀の金融政策以外の要因を除いて、金融緩和効果がどれだけ残っているといえるのか。
そもそも日銀は物価目標を達成させることで、デフレを解消させ、それが景気回復要因となり、雇用も改善し、賃金も上昇するというシナリオを描いていたのではなかったのか。
肝心の物価目標2%がまったく達成の兆しがないことは、それはつまりアベノミクスの中心となっていたリフレ政策が雇用を含めて景気を改善させるというシナリオそのものに間違いがあった可能性はなかったのか。
アベノミクスが景気回復と脱デフレという面では相当の成果を上げたと評価するのも勝手ではあるが、非伝統的な金融政策が威力を発揮したとの結論はどこからくるのか。少なくとも物価目標を達成していないという事実はどのように評価するのか。
安倍政権の支持率低下には、いろいろな要因があると思われるが、そのひとつとしてアベノミクスという経済政策への疑問も含まれているのではなかろうかと思う。当初は華々しく見えたものが、日銀は無理に無理を重ねる結果となっており、むしろその副作用も意識されつつある。そのあたりも支持率に影響を与えていると見てもおかしくはないと思われる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。