歴史学者が語る!タルタルステーキの語源を遡ってみると

写真は宮脇淳子氏(KADOKAWA提供)


いま、にわかに世界史がブームになりつつある。カナダの歴史家、ウィリアム・H. マクニール『世界史』(中公文庫)が上下巻を合わせて30万部を突破し火をつけたようだ。過去の歴史から学び、ひも解くことで見えてくるものがある。

今回は、歴史学者(専門は東洋史)として活動する、宮脇淳子(以下、宮脇氏)の近著『どの教科書にも書かれていない 日本人のための世界史』(KADOKAWA)を紹介したい。日本人が学ぶべき世界史とはどのようなものだろうか。

ヨーロッパで畏怖されたモンゴル人

――宮脇氏によると、ロシア語では、13世紀のモンゴルと、今のロシアに住んでいるその子孫たちをタタールと呼ぶそうだ。起源は、古代トルコ語のタタールで、ロシア語ではタタルの複数形がタタールになる。

「中央アジアのトルコ系遊牧民は、8世紀に初めて文字をもったのですが、モンゴル高原に残るオルホン碑文などの突厥(とっけつ)碑文でも、東方の遊牧民をタタルと呼んでいます。モンゴル部族は初めタタル部族連合に属していましたが、チンギス・ハーンが偉くなると、みながモンゴルと名乗るようになります。」(宮脇氏)

「しかし、酉方の遊牧民のあいだでは、これまでどおりのタタルという呼び名も残りました。現在のタタール人は、居住地域によって細かく分類されます。ロシア連邦のタタルスタン共和国を形成する人々をヴォルガ・タタール人と呼び、ロシア人に次ぐ第2位の人口を有しています。」(同)

――チンギス・ハーンの時代(13世紀)、ヨーロッパではモンゴル人による侵略がひどく恐れられていたようだ。

「13世紀のヨーロッパにおいてラテン語で書かれた本では、モンゴルのことをタルタルと呼んでいます。ラテン語で、地獄のことをタルタロスと言ったので、モンゴル軍の侵略に震え上がったヨーロッパでは、『地獄から来た者』という意味を込めて、モンゴル人をタルタルと呼んだのです。」(宮脇氏)

「ヨーロッパでつくられたアジア地図が、18世紀になってもなお、シベリアから満洲までを『タルタリー』と書いているのは、ここがモンゴル帝国の版図だったからです。」(同)

本書の出版経緯について

今回は、本書の出版経緯についても紹介したい。宮脇氏によれば、本書のベースは、大学などの講義の資料になる。主なものとして、東京大学教養学部の非常勤講義「モンゴル帝国が世界史に果たした役割」(13回)、東洋文庫のアカデミア講座の講義「モンゴル帝国を継承したロシアと中国」(12回)などがあり、これらをもとに大幅に加筆している。

モンゴル史を専門に選んだ理由については次のように答えている。生家は和歌山市の外れにある浄土真宗本願寺派の末寺であり、祖父が実家を継いで僧侶になった。祖父は儒教と仏教の区別がなく、どちらの教えでも女は男に劣るということなので反発したそうだ。そのような思想がどうして生まれたのか研究をはじめる。

漢文が好きなのでシナ史を研究していた。しかし、どこまでが日本固有のもので、どこからが大陸由来のものかを知るためにはさらなる研究が必要であった。モンゴルに関係した文明を追いかけるうちに、中国やチベット仏教、ロシア史、朝鮮半島や満洲の歴史まで広がり、近代日本の歴史にたどりついた。

そして、宮脇氏のもつ、多彩な視点によって見えなかった歴史観が明らかにされる。本書は歴史書として興味深いが、単なる批判的な論調ではないので理解しやすい。真摯に歴史と向き合い、溝を埋めるべく封印された事実を掘り下げている姿勢も明瞭である。そのうえで、私たちが学ぶべき歴史を丁寧に伝えている。

「世界史」を正しく理解することには大きな意味がある。そこにはいったい何がみえてくるのか。なお、本記事用に本書一部を引用し編纂した。

参考書籍
どの教科書にも書かれていない 日本人のための世界史』(KADOKAWA)

尾藤克之
コラムニスト

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