意欲旺盛な中国のAI(人工知能)記者

9月からの新学期はAI(人工知能)とメディアについて話してほしい、と学生のリクエストがあり、準備のための研究をしている。今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、初参加の習近平国家主席が基調演説で自由貿易とグローバル化を擁護し、話題をさらった感がある。だが、やはりホットな継続的テーマはAIであり、それを主要な核とする第四次産業革命の行方である。

昨年のダボス会議は「第4次産業革命の掌握(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」がテーマで、米サンフランシスコにはすでに第4次産業革命センターなるものが発足し、企業や投資家、学術研究機関が交流を深めている。中国が積極的にコミットしていることは、習近平の参加だけでなく、同フォーラムのサイトに中国語版があることからもうかがえる。夏季のダボス会議はすでに天津や大連で開催されている。


中国のテレビを見ていると、日本関連のニュースではAIやロボット開発に関するものがしばしば伝えられる。国家の重視が非常にわかりやすい形でメディアに表れるのが、この国の特徴である。イノベーションや生産性の向上、雇用に与える影響、さらには国家安全にかかわる分野まで、幅広い関心が寄せられている。中国、インドなどの新興工業国にとっては、前世紀の遅れを一気に挽回するチャンスでもある。

5月には浙江省・烏鎮で、米グーグルの囲碁AI「AlphaGo」と、中国の世界最強棋士、柯潔(か・けつ)九段の三番勝負が行われ、「AlphaGo」が3連勝し、大変な騒ぎになった。「AlphaGo」は流行語になった。

もう一つ注目されているのがAI記者だ。強化されるメディア規制で人間の記者は神経をすり減らしているが、AIの方は新たな光を浴び、ますます勢いづいている。今年の春節には、広東省のメディア「南方都市報」が、北京大学コンピュータ科学技術研究所の開発したAI記者<小南(xiaonan)>の処女作を携帯アプリを通じて配信した。内容は以下のようなものだ。

「南方都市報・記事作成ロボットのニュース:29日広州発武漢はまだたくさんチケットがある」

「チケット予約サイトの販売情報によると、2017年1月17日20:00:18までに、1月20日広州発の主要都市行き路線のうち、広州から北京、洛陽、南昌、貴陽までの列車チケットは全部売り切れました。もしこれらの駅へ行きたい友だちは、別の方法で行くしかありません……広州から武漢、長沙、岳陽までのチケットは十分余裕があり、その中でも広州発武漢はあと1534枚あります。ただ、列車は普通快速か鈍行で、自由席です。最初の駅から終点まで、道中はすこし疲れます」

中国語で300字。データを入手したのち、記事化までは1秒だったという。

米メディアはAPがすでに企業決算などの記事でAIを投入しているが、昨年のリオデジャネイロ五輪では、米紙ワシントンポストが試合結果やメダル獲得数などについてAI記者の原稿を流し、話題を呼んだ。ところが同五輪では中国もAI記者を動員し、しっかりと対決を挑んでいた。

言論統制とAI記者は奇妙な取り合わせだが、イデオロギーと科学技術は切り離されている。階級闘争の中で虐げられた知識階級を、劉少奇や周恩来、鄧小平ら歴代の指導者が、返り血を浴びながら「プロレタリア階級の一部分」であると守り続けた苦難の歴史が、この国にはある。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。