なぜ中国が送油管のバルブを閉めると第二次朝鮮戦争になるのか? --- 山田 高明

出典:Pixabay CC0 Public Domain

さる8月5日、国連安保理は北朝鮮に対する経済制裁を全会一致で採択した。

今回は従来の形だけの決議とは異なっており、中国やロシアも賛成して、北朝鮮の主要な収入源である石炭・鉄鉱石・海産物・鉛鉱石の輸出収入を断つ内容となっている。これで北朝鮮の年間輸出収入の三分の一を減らす効果があるとされる。

北朝鮮は「米国に怖気づいた」として中国を猛批判している。

中国的には、トランプ政権から度重なる批判を受け、米中貿易を人質に取られているので、やむを得ず北朝鮮への経済制裁に踏み切ったというところ。

しかし、なんとか石油の輸出禁止措置だけは先送りした格好だ。対北制裁措置は、残るは本当にあと石油禁輸だけ、というわけではないが、それに近い状況になった。

「石油を止めろ」という中国への要求に「何か」を思い出さないか

それにしても、なぜアメリカは、中国に対して、北朝鮮に対する石油の輸出禁止を執拗に要求しているのだろうか。

現代軍隊は石油で動く。それが無ければ、戦車も飛行機も自走砲も輸送車両も軍艦も潜水艦も何もかもが動かない。普通に経済を回す――トラックやディーゼル機関車を稼動し、工場に動力や熱源を供給する等――だけでも石油はどんどん消費していくので、禁輸されれば軍事分野への供給は自然と細っていく形になる。

これは金正恩政権からすれば、「座したまま死ぬか、それとも戦って死ぬか」という選択を強いられる格好に等しい。まさに対米開戦前の日本と同じ。

すると、今の「流れ」は、私たちにとってデジャヴではないだろうか。

1941年7月、当時のルーズベルト政権は、米国内の日本資産を凍結し、石油を全面禁輸した。同年9月には鉄スクラップの輸出も禁止した。

ただし、表ではあくまで、日本側が「平和的解決」に望みを抱くよう仕向けた。そうやって外交を演じながら、実際には日本の産業と軍事力の息の根を止めにかかった。

軍部はとっくにアメリカの本音を見抜いていたが、それでも昭和天皇は彼らを抑えて対米戦を回避するため、東條英機に一途の望みを託した。しかし、振り回された挙句、結局はハルノートを突きつけられて、アメリカは外交なんかやる気はないと気づいた。

今の情勢は、その対日戦直前の外交交渉をなぞっているようにも思える。

アメリカは相手に最初の一発を殴らせようとしているのではないか

すると、アメリカの「本音」がなんとなく見えてこないだろうか。

私たちにとっては不愉快なことだが、アメリカは今の北朝鮮にかつての日本帝国の姿を重ね合わせている。彼らの念頭にあるのは、日本帝国をうまく先制攻撃へと追いやったケーススタディではないか。最初から参戦狙いだった彼らからしたら「成功体験」だ。

今度も、まず経済制裁して北朝鮮の糧道を絞り、最後は石油を止めて、追い詰める。すると、「座して死ぬか、それとも戦って死ぬか」という選択を強いられるだろう。

金正恩のように好戦的な人物なら、「どうせ死ぬなら盛大に戦って死んでやろう」「できるだけ多くの敵を道連れにしてやろう」と考えるはずだ。私だってそうだ。

アメリカにしてみれば、相手が先に殴りかかってきたら、完全無欠の大義名分になる。兵器在庫一掃のために平壌を猛爆撃しようが、核兵器でまた大勢の人を虐殺しようが、「相手から先に殴りかかってきた」ということで、すべて正当化できてしまう。

世論調査によると、すでに北朝鮮は「アメリカの公敵ナンバー1」となった。いま政治的窮地にあるトランプ大統領にしてみれば、米国民を核兵器で脅す敵を打ち負かしてヒーローになるチャンスだ。すでに開戦に向けた個人的動機も生まれている。

だから、中国がアメリカの圧力に負けて石油の禁輸に踏み切るか否か、私たちは注視する必要がある。その「最後の命綱」を断たれた時、北朝鮮は先制攻撃を決意するかもしれない。決意したら、逆に静かになるだろう。そして、いきなり撃つ。

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(フリーランスライター・山田高明 個人サイト「フリー座」