東芝、電通、DeNA ―不祥事企業に共通する「美意識」の欠如

久しぶりに骨太のビジネス書を読みました。山口周氏の「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」です。

表題にあげたような、日本を代表する有名企業に不祥事が相次いでいるのは、偶然では無いと著者は指摘します。その背景にあるのは既存の事業の枠組みを前提に「サイエンス」に傾倒しすぎた経営を続けてきたことにあるというのです。

「サイエンス」とは、論理的に解答を探していく、従来のコンサルティング的アプローチ、あるいはMBA(ビジネススクール)的アプローチとも言えます。ロジカルに正しいと証明できることだけを「正解」として、説明のつかないことは取り入れないという意思決定プロセスです。

企業を取り巻く経営環境は、大きく変わりました。成長といった単純で明確な目標に向かって競争するゲームではなく、「VUCA」称される、「Volatility(変動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の中で、意思決定をしていかなければなりません。

そこでは、数値を使ってロジカルに戦略を立てる科学的アプローチだけでは、正しい経営判断を導き出せなくなりました。

その理由は、同じインプットで同じアウトプットになってしまい、企業間の差別化が出来ないことから、持続的な企業経営は困難だからです。また、世界中の市場が「自己実現的消費」に向かえば、更にサイエンスだけの経営は陳腐化していく可能性が高くなります。さらに、世界の環境変化が急激過ぎて、システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生していることもあります。

このような、変化する環境下で経営者がやるべきこと事は、決められたコンプライアンスを遵守し、KPI(経営目標)で定められたゴールを達成するだけでは不十分です。それよりやるべきことは、経営というゲームのルールを変えることです。日本の企業の多くに欠けている問題です。

ゲームチェンジの方法は、「サイエンス」だけではなく「クラフト」そして「アート」を経営に取り入れる。そして3つのバランスによって意思決定し、企業経営を行う。これが本書の提案です。

「クラフト」とは過去の経験を踏まえた職人芸のようなもの。「アート」というと、美術品や音楽といったイメージを持つかもしれませんが、「真・善・美」といった自分なりの美意識を持ち、それに行脚した意思決定を行うことです。明文化されたルールや法律だけを拠り所にすると、ルールの変化に振り回されます。内在的に「美意識を持つ」ことで、そのリスクを避けることができます。

今まで、ずっともやもやとした科学的経営の限界という疑問をクリアに解明してくれた1冊。本書にはこれからの企業経営が目指すべき、大きな方向性が示されています。

<参考図書>
「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」 山口周

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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。