ジェームズ・ボンドに学ぶ!「3流」すぎる着こなし方

尾藤 克之

画像はロジャー・ムーア。wikipediaより

「上司のミスが自分のミスになっていた」「オレに任せろ!“悪いようにはしない”と言っておきながら自分が責任を取ることになった」。仕事に理不尽はつきものだ。働いていれば、このような理不尽を味わったことは必ずあるだろう。窮地に追い込まれたら、逆転を狙うことはできないのか。しかし、その理不尽をものともしない人もいる。

それなら、組織に所属していながらも仕事がとびっきりデキて、立ち回りが上手く、評価が高い人に聞くしかない。誰もが知っている、“あの人”にはいくつかの特徴があった。

仕事の服装にはTPOが存在する

その日の私はキマっていた。新調したばかりのトムフォードのスーツ。ターンブル&アッサーのシャツにイギリス式のレジメンタルタイ。JOHN LOBBのMARLDONを合わせ、左手に輝くのはロレックス・サブマリーナー。来日したてのハリウッドスターに間違えられてもおかしくない、と鏡に映る自分の姿に朝から惚れ惚れとしていた。

本日の仕事は、東証1部に上場する大手IT会社のN社。成功すれば、年間数億円の取引も夢ではない。プレゼン資料を必死に練り上げた私は、定時の2時間前には出社し、書類の再確認と身だしなみのチェックに余念がなかった。そしてN社の訪問。通された会議室には、専務をはじめとする重役が勢ぞろいしていた。

念には念を入れて、会社の近くにある大きめの神社に参拝し、賽銭箱には万札を投げ入れておいた。やるべきことはすべてやった=負けることはない。それは私の頭の中にある、不変の方程式だった。私を脅かすような事項は何一つ無かった。勝って当然の戦いなわけである。その思いは、訪問した時点でも変わらなかった。

プレゼンは完璧に終了し、上司のMが様子を聞いてきたので「まあ、なんとかなるでしょう」と返しておいた。気の早いMはさっそく「受注確定だな」と言いつつ報告書の準備を始めている。自分の手柄になりそうなことに関してだけは、気が回るやつなのだ。1週間後、N社の担当者から電話が掛かってきた。

受注は他社に決まったとの連絡だった。理由について担当者は次のように説明した。「大変申し訳ないのですが、ボンド様の服装が少々弊社にはそぐわないという話になりまして。それで他社に決めさせていただきました」。一着40万円のトムフォードのスーツが足を引っ張るとは。カード24回払いで買ったのに。私は絶句した。

デキる男はシンプルを好む

ジェームズ・ボンドは、スパイ映画007シリーズの主人公であり、イギリス秘密情報部(MI6)所属する諜報員である。歴代ボンドはみな背が高くハンサムだ(クレイグ以外は全員186cm以上)。無類の酒好きであり、「A martini. Shaken, not stirred」は有名な台詞だ。シェイクにすることで空気がはいり柔らかい飲み口になる。

ボンドは、ブランドが一目みて分かるような服は着ない。格好悪いからである。「カジノ・ロワイヤル」のなかで、リンドがボンドのスーツを「サヴィル・ロウ?」と聞くシーンがある。「サヴィル・ロウ」とは、ロンドン中心部のメイフェアにあるオーダーメイドの名門紳士服店が集中していることで有名なストリートである。

つまり、「サヴィル・ロウ」と答えるだけで充分なのである。ブランドのタグを見せるビジネスマンを見かけるが、このような行為は下品とされる。では、一般のビジネスマンが服装だけでもボンドに近づくにはどうすべきか。形状を見てみよう。基本はシングルスーツでオーソドックス。高すぎず仕立ての良い生地のスーツをチョイスする。

シャツも白が基調で柄物は着用しない。ネクタイもアメリカ式のレジメンタルタイで十分だろう。ダーク系でシンプルな色合いなら問題は無い。靴は、男性は、ストレートチップが基本だろう。ストレートチップは、ビジネスから冠婚葬祭まで対応するので無難な選択だからである。こちらも仕立ての良い丁寧に手入れが行き届いたものを履く。

また、差がつくのは小物類だ。政治家や著名な経営者は、時計、ペン、カバンなどは高価なものを使用している人が多いが、なかなか簡単には真似ができない。まず、時計は国産の普通のクオーツで充分だろう。特に時計類のアクセサリーは高価なものを身に着けていると反感を買う恐れがあるので地味なほどベターである。

社内の理不尽に立ち向かうには

実は、3年半ぶりに出版をすることになった。『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』(同友館)になる。私にとっては9冊目の本になる。本来の専門は経営学だが、最近の経営やマネジメント系のネタには限界を感じていた。そこであるヒントが浮かんだ。社内の理不尽にジェームズ・ボンドが立ち向かう設定である。

いまは、ブラック企業やパワハラ、うつ病やうつ抜けといった、暗い会社関連の本が多い。しかし、仕事は一生やらなければいけないし、本来なら楽しくてやり甲斐があるほうがいい。もちろん、会社が理不尽な場所であることは否定するつもりはない。多くの人が上司との関係性や仕事に悩みがあることも間違いないだろう。

ボンドなら社内の理不尽に対してどのように立ち向かい対峙するか。難題を突きつけられてもクールに引き受ける。時には成功し、時には失敗する。創作した部分もあるので意見が異なる箇所もあると思うが、それは一つの解釈だと思ってもらいたい。その姿を自分自身に投影してもらえれば面白いのではないかと思う。

参考書籍
007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』(同友館)

尾藤克之
コラムニスト

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