中国が欧米エリート大学に“政治圧力”

長谷川 良

中国共産党政権が欧米のエリート大学に巨額献金し、大学教授たちを北京に招待するなどして親中派人脈を構築してきていることがこのほど改めて明らかになった。

海外の反体制派中国メディア「大紀元」は米ハーバード大学への献金問題や英ケンブリッジ大学出版局への圧力などを暴露した記事を次々と掲載している。以下、「大紀元」の記事の概要を読者に紹介する。

▲ウィーン大学キャンパス内にある中国対外宣伝機関「孔子学院」(2013年9月21日、撮影)

▲ウィーン大学キャンパス内にある中国対外宣伝機関「孔子学院」(2013年9月21日、撮影)

「大紀元」は今月21日、「中国が圧力、ケンブリッジ大学が300の論文を取り下げ」という見出しの記事を掲載した。それによると、同大学出版局がウェブサイトに掲載していた中国関連の300以上の学術論文を取り下げた。大学側は「中国からの圧力があった」ことを認める公式声明を発表している。
同出版局の説明によると、「中国国営の出版物輸入代行業者は研究論文の取り下げに応じない場合、同出版局全てのコンテンツへのアクセスを遮断させていた。大学出版局としては、他の資料を中国市場で公開し続けるために、一部の論文への検閲を受け入れざるを得なかった」(「大紀元」)というのだ。

検閲対象となった論文は、ケンブリッジ大学出版局の現代中国研究誌「チャイナ・クウォータリー」で発表していた315点の学術論文で、論文のテーマは、1989年の学生運動「六四天安門」事件での大虐殺、文化大革命、法の支配、鄧小平の改革開放政策、毛沢東主義とマルクス主義、法輪功、労働者の権利、香港、台湾、チベットと新疆などの地域研究だったという。

ケンブリッジ大学出版局が中国側の検閲を受け入れたことが明らかになると、予想されたことだが、各方面から批判の声が挙がった。そこで大学側は21日、「全ての論文が閲覧できるように処理した」と声明し、中国側の圧力を退けたという後日談が続く。

「大紀元」は23日、「学問の自由が根幹、ケンブリッジ大学、取り下げ論文を復活」という見出しで続報を報道した。そこで「ケンブリッジ大学出版局が中国側の検閲を受け入れたのは、他の文献も全てシャットアウトするとの圧力を受けたためで、一時的な措置だった」という大学側の釈明を紹介し、「学問の自由は大学の根幹という本来の立場に戻り、論文を復活させた」と大学側の対応を評価している。

「大紀元」の暴露記事は続く。今月24日になると、「中国が米ハーバード大学へ巨額の献金」というタイトルの記事を掲載した。「米名門校ハーバード大学は、中国資本から、これまでに少なくとも3億6000万ドルの寄付を受け取っている」という衝撃の内容だ。

元米政府の軍事諜報分析官は、「中国共産党政権のコントロール下にある中国資本の、米エリート大学への巨額寄付の背景には 、教授たちを“中国寄り”にして、米国の政策または世論に影響を与える狙いがあることは間違いない。ハーバード大学教授は中国で講演して謝礼を受け、著作の出版で印税収入を得、中国側の全額負担の訪問旅行を満喫している」(「大紀元」)と指摘している。

なお、欧州の独語圏最古の総合大学ウィーン大学にも中国科が開設されているが、中国側はそこに多数の留学生を送り込み、大学内に「孔子学院」(Konfuzius Insutitute)を開設し、大学教授や知識人を北京旅行に招くなどして親中派知識人を育成している(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。親中派教授が地元のメディアに時たま寄稿するが、その論文には中国寄りの主張が色濃く反映されているのは偶然ではないわけだ。

中国共産党政権の情報工作は今、欧米エリート大学内まで進出し、中国寄りの知識人を輩出するため多くの人材と豊かな資金を投入している。その規模は欧米諸国の想像をはるかに超えているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。