ユーチューバーのJアラート「体験」

長谷川 良

国連安全保障理事会は29日、日本上空を通過する中距離弾頭ミサイルを発射した北朝鮮に対し、挑発行為の即停止、安保理決議の遵守などを要求した議長声明を全会一致で採決した。一方、北の朝鮮中央通信(KCNA)によると、金正恩労働党委員長は中距離弾頭ミサイル発射を「成功した」と豪語し、「日本を驚愕させた。米グアム島に向けた前奏曲だ」と述べたという。

▲ブロード君のVblog「abroad in Japan」から(2017年8月30)

▲ブロード君のVblog「abroad in Japan」から(2017年8月30日)

誰も隣人を選ぶことはできない。同じように、隣国を恣意的に選び出すことはできない。日本国民は今、この事実を苦々しい思いで実感しているのではないか。核実験、中長距離弾頭ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮はわが国の最も危険な隣国だ。日本が選んだのでも、北側が接近してきたのでもない。気がついた時、日朝は隣人関係として存在してきたのだ。

北側は核と弾道ミサイルの開発を停止する考えはない。戦略的な中断はあり得るが、停止は北が独裁国家である限り、考えられない。ルーマニアのチャウシェスク大統領夫妻の処刑場面、そしてイラクのフセイン大統領とリビアのガダフィ大佐の2人の独裁者の悲惨な最期を目撃した金王朝だ。核とミサイルは王朝存続を約束する唯一の保険だ。この生命保険を何と交換して解約できるだろうか。あり得ないことだ。この前提の下で日本は隣人の北と対峙しなければならないのだ。

北のミサイル発射に関連して今回、YouTube(ユーチューブ)で面白いビデオブログ(Vlog)が人気を呼んでいる。日本各地を訪問し、日本の食文化をビデオに作成してユーチューブで公表している英国人ユーチューバー、クリス・ブロード君の報告だ。
彼は29日、宿泊先の青森で北朝鮮のミサイル発射時に関連したJアラートを偶然にも体験した。彼は早速Vlogを作成し、配信した。30日現在既に65万件以上のアクセスがある。

以下、ブロード君の「Being Rudely Awoken by a North Korean Missile」(北のミサイルで忌々しくも目を覚ましてしまった)というタイトルのVblogの内容だ。

早朝6時頃、サイレンが流れ、「北朝鮮がミサイルを発射したようです。頑丈な建物か地下に入って避難してください」というメッセージが聞こえてきたため、目を覚ましてしまった。その数分後、今度は携帯電話にSNSが入ってきた。同じメッセージだ。窓から外を眺めた後、ベットに戻った。その直後だ。今度はテレビから「北朝鮮が今、弾道ミサイルを発射しました」というアナウンサーの声が聞こえてきたのだ。スイッチを押してもいないのに、テレビが自動的について放送が始まったのだ。多分、緊急時にはテレビにスイッチが入るようになっているのだろうか。ブロード君は眠りを妨害した早朝の北のミサイル発射に怒りを感じる一方、Jアラートの情報伝達システムにも驚いてしまった、という3分余りのビデオだ。

(時事通信によると、総務省消防庁は29日、全国瞬時警報システム『Jアラート』で、北朝鮮のミサイル情報を配信した。発射から約4分後の午前6時2分に『発射情報』を、約16分後の同14分に日本上空を飛んだとの『通過情報』をそれぞれ伝えている)

ウィ―ンに住む当方はJアラートという言葉は知っていたが、具体的にどのようなシステムか知らなかった。だから、ブロード君だけではなく、当方もその情報伝達システムにはビックリした。

地震が発生する度に、インターネット上で速報が流れ、津波の危険などについて情報が流れてくる。しかし、地震のないアルプスの小国オーストリアに住む当方はそのような速報を生々しく受信するということはなかった。また、北のミサイルが届かない欧州に住んでいることもあって、Jアラートを体験する機会はない。だから、地震や北ミサイルの飛来情報が流れるたびに避難しなければならない日本国民の状況を考えると、日本という民族の宿命をどうしても考えてしまう。

参考までに、ウィ―ンで体験する危機管理といえば、原発事故を想定したサイレン演習が年1回、実施されるだけだ。オーストリアには原発はないが、東欧諸国の原発事故を想定したものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。