29日の引けあとに10年債利回りはゼロ%ちょうどをつけた。日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和で、長期金利操作については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行うとしており、まさにその目標値をつけたことになる。
29日の米国市場ではいったんリスク回避の動きを強めたが、すぐに軍事衝突に至る状況でもないことで、リスク回避の反動が起きていた。このため、30日の東京市場はドル円は上昇したこともあり、株式市場はしっかり。円債は戻り売りに押され、ひとまず10年債利回りがマイナスとなることはなかった。ただし、これはカレント(直近に発行された銘柄)だけの話であり、直近発行の347回債はマイナス金利ではないものの、その前に発行された346回までの銘柄の利回りはマイナスとなっている。
30日の10時10分に日銀は、残存期間5年超10年以下4100億円、残存期間10年超25年以下2000億円、残存期間25年超1000億円、物価連動債250億円の国債買入をオファーした。買入額はいずれも前回から変わらずとなっていた。
日銀は8月16日の国債買入のオファーの際、5年超10年以下の買入予定額を前回の4700億円から300億円減額し4400億円とした。さらに25日にも300億円減額し4100億円としていた。
この国債買入の動きは一時長期金利の0.110%近くまでの上昇を受けて、指し値オペとともに国債買入を増額したことに対し、長期金利が今度は低下基調となっていたことで、買入金額を元に戻すような調整をしたと思われる。目的が長期金利の低下を抑えるものではないことで、減額でオファーされても債券先物などはむしろ買われるような展開となっていた。
日銀はすでに金融政策の調整目標はマネタリーベースという量ではなく金利に置き変えている。このため保有残高の増加額年間約80兆円をめどとするとの文言は置いてあるものの、実際には国債の需給バランスも意識して買入額を減少させている。これで緩和効果が後退しているのかどうかはさておき、市場参加者も実質的なテーパリングであるものの、正常化に向けた動きとは捉えていない。
2016年1月の日銀のマイナス金利政策の採用により、10年債利回りどころか20年債利回りまで一時マイナスとなってしまった。これによる民間での資金運用にもマイナスの影響が出始め、大手銀行や生保などのトップから批判が相次ぎ、その結果、イールドカーブを立たせて民間に運用益を確保させようと決定したのが2016年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和であった。
日銀が金融政策の調整目標はマネタリーベースという量から金利に置き換え、さらに長期金利も操作目標に置いた理由はイールドカーブコントロールにある。正確にはイールドカーブをスティープ化させることが目的となっている。ただし、それも短期金利はマイナス0.1%、長期金利がゼロ%であり、そこから多少オンされた超長期の利回りが意識されていることになる。
少なくとも長期金利を操作対象に加えた経緯から考えると、日銀としては再び20年債あたりまでがマイナス金利になることは避けたいであろう。つまり10年債が多少のマイナス(マイナス0.1%あたりまで)は許容範囲となろうが、そこからさらなる低下はその要因次第の面はあるものの、長短金利コントロールを打ち出した以上は何かしらの手段を講じる可能性はある。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。