桃太郎に学ぶ採用氷河期の乗り越え方

岡山駅の新幹線ホームで見かけた広告が実に秀逸だった。
「桃太郎の勝因は、出会いでした」

中四国エリアの人材ビジネス企業、キャリアプランニング社によるものだ。桃太郎にゆかりのある地(というのは、何箇所かあるのだけど)✕人材ビジネスというなんとも絶妙な組み合わせだ。何より、「いい話を聞いたなぁ」という、あたたかい気分になるものだった。

昨今の広告においては、「バズる」ことが極度に目的化されているかのように感じる瞬間がある。時にこれは、炎上を誘発する(中には、牛乳石鹸のウェブ動画広告のような、バズることの目的化どころか、そもそも雑というか、お粗末なものもあったが)。

広告とはそもそも、「迷惑」なものになる可能性がある。セグメント、ターゲットを明確にした広告が模索される今日このごろだが、嫌でも見てしまう可能性があるわけで。

そんな中、このように「あぁ、いい話だ」と思えるものは素敵だ。何かこう、突然、プレゼントをもらったかのような気分にもなる。岡山✕人材ビジネスにちなんだものだとなおさらで、ビジネスパーソン視点から「うまい!」と思い、「いい仕事だなあ」というジェラシーすら感じてしまう。

そして、これは「採用氷河期」における、企業へのエールでもあると言える。この広告を見かけたあと、岡山で企業の人事や、大学教職員向けのセミナーがあり。冒頭のアイスブレーキングで、「桃太郎はなぜ、鬼退治に成功したのか?」と問いかけてみた。さすが、人事担当者は分かっていらっしゃって。人材マネジメントの勝利だという話になった。

「では、桃太郎式人材マネジメントを、御社はできていますか?」
さすがに、この問いかけはしなかったが、こう言われると答につまってしまう人もいることだろう。

桃太郎は、時に組織の模範として引用される。様々な人が解釈を試みてきた。Facebookに桃太郎のことを書くと、何人かが、過去のエントリーを紹介してくれた。

そういえば、以前、平成の入社式で大手の社長が何を語ったのかを調査したことがあったが、まさに、2012年の入社式でアサヒグループホールディングスの泉谷直木社長(当時 現会長兼CEO)はこのようにスピーチしている。

「同質のひとが集まる『金太郎飴』では対応できない。犬・猿・キジといった個性が集まる桃太郎集団ではなくてはならない。」

桃太郎とは、多様性軍団なのである。しかも、最近ありがちな、多様性が目的化した集団ではなく、タスク、強みの多様性が実現している。もっと言うと、本来であれば、自分と同レベルの浦島太郎、龍の子太郎、金太郎クラスが仲間になると最強なのだが。動物に助けてもらうことで、人手不足を解消したとも言える。要するに、東一早慶クラスを採用できなかった企業のようにも見えてくる。

きび団子で懐柔したというのもある意味、すごい。まあ、当時はごちそうだったという説があり。やりがいですべてをクリアしようとするブラック企業とは違い、具体的に報酬を用意したわけだ。

何よりも、鬼を退治するというゴール。さらにはその後につくりたい世界にも言及していたかもしれない。ビジョンを提示したわけだ。

時代は採用氷河期なのだが、当たり前なのだけど、ビジョンの提示、待遇を少しでもよくすること、多様な仕事を用意しそれぞれの強みを引き出すこと。これが桃太郎軍団の勝因だ。

もっとも、桃太郎には諸説ある。最近では暴力的な物語だという解釈もある。大学時代の教育学の講義では、鬼が女性を捉えていて、それを略奪しようとしたという説があることも学んだ(ややうろ覚えではある)。鬼の立場では、鬼が正しい。

ただ、個人的には採用氷河期のお手本のような話だとも思うのだ。うん。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。