「ママ友にお出かけ誘いも断る」ひとり親の孤立をどう支えるか


ひとり親など支援を必要とするご家庭に、企業からの食品寄付を届ける「こども宅食」を運営している駒崎です。

先日、未婚のひとり親の保育料が軽減されるかもしれない、というニュースがありました。

未婚の親でも保育料軽減 厚労省、18年度から:日本経済新聞 

こうした支援が長年必要とされてきたように、ひとり親家庭は厳しい経済的状況にあります。具体的に言うと、2人に1人は相対的貧困ライン以下の状態にあります。

厳しい経済状況にあるとはいえ、子どもと連絡を取るためにスマートフォンを持っているケースが多いことや、ファストファッションの流行により洋服が安く手に入ることなどから、サポートが必要な家族かどうかは外から見ただけでは分かりません。

そこで、ひとり親家庭の生活の実態を知っていただくために、10歳のお子さんをお一人で育てながらフルタイムでお仕事をされている佐藤さんにインタビューをしました。

この記事を読む皆さんに、少しでもひとり親家庭を身近に感じてもらえたら、と思います。

時間にも経済的にも余裕がない中、工夫を重ねる毎日

駒崎:仕事に育児に家事に忙しい毎日だと思うのですが、どのような毎日を送っていらっしゃるんですか?

佐藤さん:私は毎朝4時50分に目覚ましをかけて起きています。朝は掃除や洗濯などの家事全般のほか、息子の朝食の準備をします。とにかく息子は卵が大好きなので卵を使った料理を作っておきます。

それから、昨夜の残り物を詰めて自分のお弁当を作り、職場に持っていっています。

周りの社員の方は昼食を買うことが多いのですが、やはりお金もかかりますので、自分は極力お弁当を持っていって節約するようにしています。
駒崎:今は夏休みですが、お子さんのお昼ご飯はどうされているのですか?

佐藤さん:夏休みは学校がないので、息子は近所でやっている無料の学習支援に行っています。学習支援には給食がないので、子どもにはお弁当を持たせています。

周囲の方から「毎日お弁当だからって、重荷に思う必要ないのよ。おにぎりとみかんでもいいんだから」とあたたかい言葉をかけてもらえましたし、本人も小柄で食が細いのでおにぎりしか食べないこともあるんですけど、子どもの身体のことを考えて、おかずも作るようにしています。

生活を考えると、簡単に仕事を休めない

駒崎:10歳とはいえ、放課後や夏休みに子どもを一人にさせるのは、まだ不安があるのではありませんか?

佐藤さん:昨年、4年生になったときに、学童に入れなくなったんですね。定員があるので、1年生に譲ってほしいと言われてしまって。そこで鍵っ子にして、一人でお留守番をさせていたのですが、親の目の届かないところで金銭的なトラブルに巻き込まれてしまって・・・。

それがきっかけで、放課後は団地の会長さんのご自宅で面倒を見ていただけるようになったんです。
駒崎:今どき珍しいご近所付き合いがあるんですね。

佐藤さん:はい、とても助けていただいています。今では夕食までいただくほど親身になってくださっています。 今はおかげさまで、実家が近くにあるような生活を過ごさせてもらっています。

駒崎:それはとても有難いことですね。ちなみにご実家はどちらなんですか?

佐藤さん:静岡なんです。遠くはありませんが、そう簡単に親を頼れる距離でもないんですよね。息子が保育園の頃にインフルエンザに罹ったときは、息子を実家に預けて、新幹線で通勤して大赤字になったこともあります。生活のこともあるので、そう簡単に仕事を休めないんですよ。

あの時、誰かに頼めたらよかったなと思います。ただ、人を家にあげることには少し抵抗があります。
実は以前、「子どもを虐待している」といたずらで通報されたことがあって、児童相談所の人がきたんですね。「この子には傷もないし、泣いてもいないですよね」と息子の様子を見せて、帰ってもらいました。

「仕事で来ている」ということは分かっているのですが、周囲の人から「この人何かしたの?」と思われることが怖くて、やっぱり児童相談所や区役所の人が自宅に来るというのは少し抵抗があります。

今は会長さんのように信頼できる人に見守ってもらえて、本当に助かっています。

子どもの願いを叶えてあげられないことが悲しい

駒崎:周囲の方に支えてもらう一方、それでも普段の生活の中で何か困ったことはありますか?

佐藤さん:ママ友達からお出掛けのお誘いをいただくこともあるのですが、経済的な理由からなかなか毎回参加することはできません。断り続けると「なんで行かないの?子どもがかわいそう」と言われることがあって…。

それからは無理矢理行くようにしているのですが、どうしても行けない時には断っています。そうすると「代わりに連れて行ってあげるよ」と言われるんですよ。子どもを預けるのはさすがに申し訳ないですし、どちらにしてもお金がかかってしまいますよね。

駒崎:息子さんが何か我慢をされている様子はありますか?

佐藤さん:毎年、夏休みになると、「一行日記を書く」という宿題が出るんです。一行日記に書けるように、どこかに連れて行ってあげたいという思いはあるのですが、なかなか旅行に行くのは難しくて。「旅行に行く=実家に帰る」ということになりがちなんです。

それ以外だと、せいぜい近所のプールや夏祭りに連れていくのでギリギリです。子どもがディズニーランドに行きたがることもあるのですが、もう何年も連れて行けてないんですよね。

節約を重ねていても、「お金がない…」と無意識につぶやいてしまうこともあって。その時に子どもが「ママ、はいどうぞ」って自分のお小遣いを持ってきてくれるんです。優しい子に育ってくれているのは嬉しいことですが、子どもの願いを叶えてあげられないのは、母親としてはやはり悲しいです。

駒崎:普段の学校生活で気がかりになっていることはありますか?

佐藤さん:色々な人の手助けがあるおかげで日々の生活を送ることができているのですが、旅行だけでなく、子どもの習い事や部活はやはり難しいですね。本人もそれを分かっているのか、「やらない」って言うんです。

また、きちんと勉強を見てあげられないのも気になっています。忘れ物も多いですし、学校からいただくプリントをまとめて出してきたりもするので、もう少しきめ細かく、子どものことを見る余裕がほしいのですが……。

ただ、私は会長さんのサポートもあるので、周囲の家庭よりは恵まれていると思います。周りのひとり親さんの中には、夜勤が多く、夜の間子どもをひとりぼっちにさせざるを得ない家庭もあります。

色々なひとり親家庭があることを、ぜひ多くの方に知っていただきたいですね。

経済的余裕のなさが孤立を生む

工夫を重ねながら、一所懸命子育てをしている佐藤さん。

ひとり親家庭の中には、佐藤さんのように「生活を支えるために、仕事を簡単に休めない」「旅行や習い事、部活動のお金を捻出するのが難しい」という家庭もあります。

そうした家庭は、ママ友からの誘いもなかなか喜んで受けられず、孤立しがちになってしまいます。

一方で、今回のケースのように近所に親切な自治会長さん等がいる場合、預けられたり、一緒にご飯を食べることで、孤立に陥らずに済みます。

ちょっとした人間関係が、ひとり親家庭を支えるセーフティネットになる、という事例なのではないかな、と思います。地域のおせっかい力とも言うべき、能動的な関わりがもっともっと必要です。

行政支援とスティグマ

インタビューの中で、児童相談所の職員の訪問に戸惑われた経験を語る箇所がありました。

行政支援は必要である一方、行政支援があることで、周囲から「あのうちは・・・」という視線で見られる可能性も出てきてしまいます。

こうしたことをスティグマ(刻印性)の問題と言い、社会福祉領域においては、特に配慮が必要となります。

例えば多くのこども食堂では、所得に関わらず、誰もが来れるような形で運営されています。また我々の行う「こども宅食」では、配達員は民間の運送会社の方で、特別な人が行く形式にはしていません。

支援を行いつつ、支援される人の気持ちを萎えさせないよう。そんな姿勢の重要性を再確認しました。

私たちができることは

朝5時前に起きて、子育てと仕事に頑張る佐藤さん。佐藤さんのようなひとり親家庭は100万世帯を超えます。彼女たちはワンオペ育児を余儀なくされていますが、社会が気軽に手を貸して、一緒に走って行くことでワンオペから抜け出ることができます。

どんな形でも良いです。あなたが貸せる「手」について、これを機に考えてみませんか?

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編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年8月31日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。