【映画評】ギミー・デンジャー

渡 まち子
ギミー・デンジャー~ストーリー・オブ・ザ・ストゥージズ

1967年にミシガン州で結成されたロックバンド、ザ・ストゥージズ。イギー・ポップら4名で結成されたバンドは、過激なライブ・パフォーマンスと、ジャンルをクロスオーバーした実験的な音楽でロック・シーンをけん引した。だが74年、様々な問題をはらみ、バンドは自然消滅する。監督のジム・ジャームッシュは、メンバーと、彼らに本当に近しい関係者のみに取材を行い、イギーを中心に当事者たちの言葉によって、華々しくも混乱に満ちたストゥージズの歴史を振り返っていく…。

伝説的バンド、ストゥージズの真実を描く音楽ドキュメンタリー「ギミー・デンジャー」。ロック界のカリスマ、イギー・ポップが属したストゥージズは、実に興味深いバンドだ。ステージ・ダイブなどの過激なパフォーマンスと、サイケやフリー・ジャズなど、多くの異なる要素を融合させた実験的サウンドは、当時は受け入れられず、評論家からは、下品で退廃的と叩かれる。しかし、その型にはまらない音楽は、後に多くの名だたるバンドが影響を公言した。音楽、映画、美術など、時代によって評価が真逆に変わる芸術は多くあるが、共通するのは、未来を先取りした尖鋭性を持っていることだ。

元々音楽へのこだわりが強く、過去にも音楽ドキュメンタリーを撮ったことがあるジャームッシュは、自他ともに認めるストゥージズの大ファンで、特にイギー・ポップとは親交が深く、役者として「デッド・マン」「コーヒー&シガレッツ」で彼を起用しているほどだ。ただ、イギーはバンドのフロントマンで一番知名度がある人物だが、彼がソロになってからのエピソードは本作には含まれない。なぜならこれはストゥージズのドキュメンタリーだからだ。そんな公平なスタンスがあったからこそ、メンバーであるロンとスコットのアシュトン兄弟らも、当時の自分たちをストレートに語ってくれたのだろう。首輪のエピソード、デヴィッド・ボウイとの出会い、デトロイトへの愛…。多くの愚行と共に、彼らの唯一無二のスタイルが浮かび上がる本作には、ストゥージズへの愛があふれていて、監督自ら“ストゥージズに宛てたラブレター”と表現しているのも納得できる。残したアルバムはわずか3枚。アシュトン兄弟やスティーヴ・マッケイら、メンバーの3人はすでにこの世にはいない。映像資料としても貴重な1本となった。
【65点】
(原題「GIMME DANGER」)
(アメリカ/ジム・ジャームッシュ監督/イギー・ポップ、ロン・アシュトン、スコット・アシュトン、他)
(ストゥージズ愛度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。